F&Aレポート

声のもたらす効果 ~女は「よそ行き」の声が出せなくなった

声のもたらす効果 ~女は「よそ行き」の声が出せなくなった

 最近の新入社員研修の中で驚いたことのひとつに、電話応対の難しさがあります。その証拠に「知らない人と電話で話したことがないんです」と言う若い人は少なくありません。一瞬「?」と思うかもしれませんが、物心ついたときから携帯電話やスマホを使い、個人から個人へダイレクトにつながる世界で生きてきた人たち。誰からかかってきた電話なのか、わかった上でボタンを押せば即、会話という便利な世の中でのコミュニケーションが当たり前なのです。

 受話器を取って、相手方に名を名乗り、「○○さんをお願いします」というような手順をふむことがないぶん、あらたまった言い方、声の出し方などは、ほとんど経験がありません。そんな中で、女性雑誌「美的」(小学館)のビューティコラムで美容ジャーナリスト斉藤薫さんの興味深いエッセイがありましたのでご紹介します。

女は「よそ行き」の声は出せなくなった。一瞬で質の高い女の印象を生み出せるのに

 家でも仕事場でも、電話に出ることがめっきり減った。ましてや、よそ行きの声を使って電話に出るということはまったくなくなった。今となってはもう信じられないけれど、携帯電話もなかった頃、ボーイフレンドの家に電話するとき、先方の親が電話に出るかもしれないからと、毎度ドキドキしたり、声を整えたり。どっちにしろ“良い娘さん”を装うため、多少なりとも“声色”を変えていたりしたと思う。

 事実、大袈裟ではなく、電話に出る時は普段の声より1オクターブも高いファルセットの声を出す人がいた。逆に、相手が家族だとわかると、突然1オクターブ声のトーンが下がる。どちらにせよ、かつての女たちはみんな“普段着の声”と“よそ行きの声”を持ち、臨機応変に使い分けていたのだ。

 それ、実はとても大切なこと。携帯電話の出現が、女たちからよそ行きの声を奪ってしまった。誰からの電話かわからずに、受話器を取る時の1オクターブ高く美しい声は、女にとってとても重要なものなのに。女の第一印象を作るもの……その内訳にはちょっとした誤解がある。いや、以前とは内訳が変わったというほうが正しいかもしれない。ひと昔前は、ファッションや髪型が第一印象の多くを担った。コンサバ(保守的なファッション)な女は心もコンサバ、単純にそう考えればよかったから。でも、いつの頃からか、破れたジーンズを穿いていても、心はコンサバという女性が増えてきた。金髪に染めていても東大卒、という女性も現れた。つまり見た目では、どんな女性か、とても判断しづらい時代なのだ。でもだから、「こんにちは」「はじめまして」というたったひとつの挨拶の方が、むしろファッション以上に正確にその人の印象を語り出す。声の質とトーン。ちょっとした言葉の発し方。本当に一瞬の“音の印象”こそが人となりをそっくり表してしまうのだ。

 もちろん、声色を変えましょう、1オクターブ高い声を出しましょう、なんて言わない。でも多くの人がもっと美しい声をもっと美しく発することができるのに、それを知らないし、やらないのは残念なこと。「もしもし」の一言であっても、よそ行きの美しい音を込められたら、知的で躾の行き届いた印象が生まれるのに、そのレッスンを全くしていないかた、とっさに出てこないのだ。

 言葉遣いはもちろん、声の質とトーン、言葉の発し方は、正直いくらでも変えられる。それも女にとってはオシャレのうち。「こんにちは」「はじめまして」のたった一言でも、豪華なジュエリーのように自らを誰よりもキラキラ輝かせることができるのに。

 魂レベルの高い人と低い人。そういう言い方がある。人間の質を決定づける重要な分類かもしれない。それはどう判断するのだろう。魂の高さ低さなどわかるわけがないと思う。でも、実はそれを誰もが一瞬で判断する方法がある。他でもない、話し方である。

 美しい声で美しく話す。穏やかな言葉で穏やかに話す。そういう人が、ズバリ魂レベルの高い人。なぜか?それだけで相手を幸せにすることができるから。人はコミュニケーションによってただ情報交換しているだけではない。短い時間で相手を幸せにしたり、不幸にしたりしている。その是非がそのまま人間のレベルを示したとしてもおかしくないはず。

 逆のケースなら、よりわかりやすいかもしれない。濁った声で、乱暴な言葉遣いで、いつも不平不満を言っている人がそばにいた時、常にそういう音を聞いていると、明らかに心が荒む。嗅覚が良い香りと悪い香りを嗅ぎ分けて、幸せと不幸せをかんじるのと同じ、耳も幸不幸を聞き分けている。周囲の人をちょっと思い浮かべてみて欲しい。

「お疲れですか?」の一言で、人を酔わせ、幸せにする“武井ママ”

 たとえば、最近注目されているハズキルーペのCM。武井咲が演じるクラブのママが、お客となってやってくる小泉孝太郎に「目がお疲れですか?」と尋ねる。なんでもない一言だけど、その声の質とトーンは、普通の娘のものじゃない。日常ではない最高級のおもてなしがそこに感じられる音なのだ。耳にするだけでフワーッと幸せな気持ちになれる。こういう音の作り方ができるのはある種の天才ではないか。是非一度耳にして学んでみてほしい。

 大切なことを忘れていた。きれいな声できれいな言葉で話そうとすると、顔立ち「まできれいに見えるという不思議な連鎖反応があることをご存知だろうか。美し声が美しい顔立ちを作るのは、むしろ生物学的な神秘。人間ひっくりかえっても“怒鳴りながら笑えない”。音と形はどこかの神経でつながっているから。美しい音を出せば美しい顔になる。これは間違いないのだ。美しい声で美しい言葉を話す女は魂レベルが高いだけでなく、美しい。最強の女性美と言えないだろうか。【「美的」(小学館)のビューティコラム斉藤薫氏」

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