ページ三角折り 最近読んだ本から ~イオンを創った女 評伝 小嶋千鶴子 2
日本の実業家。三重県四日市で四日市岡田家が起業したイオングループの元経営者で、イオンのビジネス精神を築いた小嶋千鶴子氏のことばと理念を前回につづいてご紹介します。(「イオンを創った女」東海友和著 プレジデント社)
<散歩のついでに富士山には登れない>
「目標をもちそれに向けて、具体的な計画を立て、手段を考え、知識のないところは勉強してきた。そのおかげですべて達成した」
小嶋や岡田卓也のジャスコ設立までには長い助走期間・準備期間があった。準備とは精神的準備、能力・技術的準備、経済的準備、体力的準備のことである。精神的準備を支えるのは、高い志と情熱と困難に立ち向かう勇気である。
小嶋は戦前は動乱の時代を乗り切る使命感と知恵、戦後は復興と再建に立ち向かうため、姉と弟と数人の部下の能力を使い切った。それらすべてが、ジャスコ設立の精神的準備を整えるための助走期間であったと言えよう。
その後、アメリカ小売業を目の当たりにした後は、より大きな目標に書き換え、チェーン展開に乗り出したが、チェーン展開には多くの管理者・専門職が必要となる。そこで、大卒社員定期採用、大卒社員の大量採用などの人事施策に乗り出した。このように歴史を遡ると、小嶋の施策に共通しているのは、「用意周到」とも言うべき戦略眼を有していることである。今日の課題を処理しながら、明日のために何をなすべきかをきっちりとおさえているのである。
<教育こそ最大の福祉>
「私自身も地方の小売屋でおりましたが、猛勉強をして、人事管理についても一応の自信を持って仕事をできるまでに努力をいたしました。町の小売屋から専門技術を持つ専門経営者としての道の選択でございました。言うなれば、知的資産の獲得であり、それゆえにその後の収入を得ることができました。私の収入は同族だから得られた収入ではなく激しい努力で得られた技術に対する報酬であったと思っています。(中略)潜在能力を生かすには、時間と資本を正しく有効に使うことが必要であり、中でも教育投資にどれだけの時間と費用を回すかによって将来が決まります。教育は最高の投資です。成功を手にした人は終始学び続けた人だということを忘れてはなりません」
小嶋は早くからの大卒社員の採用、女性の社会進出を見越した「奥様社員制度」の導入などを図り、徹底した社内教育を実施した。
「かつて小売業に従事するものは、賃金も低く、労働条件も悪く、社会的にはいつも低いところに位置付けられていた。また日本の商業が後進的といわれたのも、小売業に、知識の不足という弱みがあったからである」
そう著書『あしあと』で言っているように、小売業の近代化のための方策として、教育を重視した。小嶋自身も、高等女学校を卒業して東京の学校への進学を希望し、その予定でもあったが、家族の不幸によって断念を余儀なくされた。
「目標をもつこと」「勉強すること」は彼女の口癖である。ことあるごとに「いま、どんな本を読んでいるんや」「将来なんになりたいの?」「そのためにはどんな勉強をしているの?」と相手かまわず声をかけ、そのための具体的なアドバイスをする。小嶋は経営者であると同時に偉大なる教育者である。多くの若者を育て、多くの人々の人生に生きる「術」を教え、学ぶことの大切さと実践を教えている。
小嶋氏語録には興味深いものが多くあります。「現場は宝の山」「仕事の意味づけをする」「公正な能力をはかるモノサシを創る」「なくてはならない人になる」「『あるもの』よりも『ないもの』で人生は決まる」「選択で自己が決まる」「信頼の基礎は責任感と使命感」「自己の成長・成功のために何をなすべきか」「考えるチカラをなくした職場は悲惨」「脇が甘くなる趣味と私事」など。経営者なら読み終える頃、思わず襟を正したくなる一冊です。