F&Aレポート

「生物の多様性」「“いま、ここ”への集中」=よい未来、よい職場 ~いきもの38億年の歴史に思いを馳せて2

「生物の多様性」「“いま、ここ”への集中」=よい未来、よい職場 ~いきもの38億年の歴史に思いを馳せて2

 この地球上に、いきものが誕生して38億年、陸に生物が上がって5億年、人類が誕生してから20万年です。さらに人間が農業を始めてから現在までが1万年。現代を動かしている科学技術はせいぜい、ここ200年~300年の期間です。

 科学技術は、人類の歴史から考えると本当にわずかな期間に起こった変化ですが、現代に生きている人、特に生まれたときから電気機器に囲まれている若い人は、それこそが人間の生き方だと思っています。

 ヒトを機械と同じように捉える現代の傾向に警笛を鳴らす中村桂子氏(JT生命研究館館長)は、経済性だけでなく、いきものとしての側面からひとを見れば、多様性の面白さ、貴重さ、そしていかに生きるべきかがわかると言います。

 「いま、ここ」に集中すること、多様性を楽しむこと、さらに美しさの追求が、今をよりよく生き、よりよい未来を紡ぐヒントだそうです。前回につづいての特集です。
(参考資料:産業カウンセリング2018.No361 一般社団法人日本産業カウンセラー協会)

■ 「いま、ここ」への集中
過去への後悔も未来への不安も、感じられるのは人間だけです。時空を超えて過去や未来を考えたり、自分が行ったことのない海外や、目に見えない世界について考えられるのはヒトの想像力のたまものです。その能力を生かす必要がありますが、そのためには「いま、ここ」にいるという認識が必要になります。

 「いま、ここ」をしっかりと結びつけて過去を振り返れば、ちゃんと生きて来たなと思えるでしょう。よい未来もまた「いま、ここ」を一生懸命つなげることで生まれます。

 機械は効率よく時間を区切って使い、なるべく短くしようと努めます。一方、生きものは時間を紡いでいかねばなりません。

 一人ひとりが違うという意味では、多様性は個別性と表現してもいいと思います。たとえば、一卵性双生児のゲノムは同じですが、暮らしていくうちにゲノムの働き方が変わってきます。顔はそっくりなのに、やることがまったく違うということもよくあります。もちろん遺伝子と関係ないところも変わっていくので、同じ遺伝子でもまったく違うヒトに育っていくのです。自分が他人と違うことがわかれば、自分が何を生かすべきかもわかるでしょう。

■ 自然界にヒントあり
  もし悩んだら自然に触れて暮らすことです。マンションのベランダで、ミニトマトの苗をひとつ育てるだけでも生活は変わります。自然のないところで暮すのはおやめになることです。高度成長期以降、都会へ都会へと人が集まり、効率よく仕事をこなしてきました。でも、そういう時期は終わりを告げつつあります。そろそろ日本でも全国に散らばって、自然の中でお仕事をすべきではないでしょうか。

 人口1億2000満人を1都1道2府43県で割り算すると、各県250万人ぐらい。各県の中心として金沢市や松山市ぐらいの50万人程度の都市をおき、さらに県内に20万人ぐらいの町が点在する。その周辺に農村や漁村があって人が暮す。これが実現すれば、とても美しい日本になるでしょう。

 日本は雪が降る地域もあれば、珊瑚礁に囲まれた島もあります。こんな豊かな自然があるのに、東京に一極集中しているのはバカらしいと思います。

■美は生きることの基本である
美しくないモノはつくってはいけないと、私は思います。生命誌研究館の展示でも、「科学を知らせるのだからわかればいいでしょう」ではいけません。美しさは、物事の判断の一番のベースになると考えます。古代の歴史建造物や遺跡を見ても、美しいですよね。熊本県で発見されたチブサン古墳の色鮮やかな幾何学模様は、現代の前衛作品を上回ると感じます。

 たとえ美術を学んでいなくても、美しさはわかる。それは美によってほとばしる何かが、私たちの中にあるからだと思います。だからこそ美は、生きることの基本につながって居ると感じるのです。そして美の大体は自然にあります。美しいと感じるものの中にも38億年の歴史的な積み上げが埋まっています。経済だけでなく、生命としてのヒトの時間や、生きがいといったことにも視点を持つことは、多様性(個性)を認める豊かな社会、活き活きとした職場の実現につながるのではないでしょうか。

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