「束の間づきあい」と「挨拶+α」
江戸しぐさでは、ちょっとした待ち時間や乗り物で隣り合わせに座ったときに、天気や季節の話しをするなどしてお互いが気持ちよく過ごせるよう会話を交わすことを「束の間づきあい」と言いました。当時、江戸は地方から集まった人も多く、また限られた敷地の中で多くの人が行き交い、暮らしていました。お互い相手がどこの誰だかわからない状況で、口もきかないでいるとますます緊張感が高まり居心地が悪くなってしまいます。
江戸時代は見知らぬ人も仏の化身と考えていました。すれ違う人にも軽やかに挨拶をし、「袖振り合うも何かの縁」と、せっかくひとときを一緒に過ごすのならと、ことばを交わしていたのです。まさに「束の間のつきあい」が上手だったわけです。
今は「知らない人には声をかけちゃいけない」と、言われる時代です。同じマンションに住んでいても、エレベーターの中で知らない人に挨拶をしようものなら、変質者扱いされるかもしれません。また、電車の中で、知らない人に安易に話しかけても迷惑がられることでしょう。
とはいえ、これは「知らない人」に限った話としましょう。顔見知り、ましてお客様や同僚、上司、先輩などに、気の利いた短い会話ができる人は好印象です。挨拶にひと言加えるだけで印象が変わります。
「おはようございます。今日は寒いですね」「ありがとうございました。今度お目にかかるときは桜が咲いていますね」など、特別な知識がなくても笑顔で伝えれば、誰でも気持ちがホッとするし、次のコミュニケーションのきっかけにもなります。
会議の待ち時間、エレベーターホールでのひととき、話し込むでもなく、無言で過ごすでもなく。ストレスの多い現代で「束の間づきあい」が上手い人は、「大人」ということになるのではないでしょうか。