F&Aレポート

経営の視点からみるメンタルヘルス

特集 経営の視点からみるメンタルヘルス

 企業におけるメンタルヘルスの悪化は今や日米欧先進国のみならず、工業国にも共通している。日本では14年連続して自殺者が3万人を超えている。これは人口10万人あたりの自殺者が25人という計算になり、業種、職種、官民を問わず、G7では際立って多い。ある調査によると、メンタル不全、とりわけうつ病では、その予備軍も含めると7人に一人という割合になるともいわれている。
 メンタルヘルスは個人の問題に見えるが、企業の収益、生産性に直結する組織上の問題なのである。みかけ上、心の病気は社員という個人に現れるが、その背後には過重労働、コミュニケーション不足、不適切なマネジメントなどの組織のさまざまな問題が横たわっている。ストレス社会ともいわれる現代では、人的資源管理のためにも、管理者がメンタルヘルスについての知識を持つことは逃れられない現状なのだ。

1.部下のイエローサインを見逃すな!
 いつもと違った様子がないか、チェックしてみよう。多いほど危険!

[出退勤の変化]
□遅刻や早退が増える
□職場を休みがちになる
□休みの連絡がない(無断欠勤がある)
□残業、休日出勤が増える

[仕事の変化]
□仕事の能率、業績が落ちる
□思考力、判断力、集中力が低下している
□業務の結果がなかなか出てこない
□報告や相談、職場での会話がなくなる
□ミスや事故が目立つ

[感情の変化]
□感情が不安定になる
□性格が急に変わったようにみえる
□突然、涙ぐんだり、落ち着かなくなる
□不機嫌、怒りやイライラを爆発させる
□絶望感、孤独感、自責感、無価値観にとらわれる
□逆に、不自然なほど明るく振る舞う

[態度の変化]
□衣服が乱れるなど、身なりを構わなくなる
□不自然な行動が目立つ
□投げやりな態度が目立つ
□これまで関心のあったことに興味を失う

[人間関係での変化]
□交際が減り、引きこもりがちになる
□強いきずなのあった人から見捨てられ
□近親者や知人の死亡を経験する

[体調の変化]
□食欲がなくなり、体重が減少する。または急激な増加
□ 不眠がちになる
□ さまざまな身体的不調を訴える

[行動異常]
□激しい口論やけんかをする
□事故につながるような危険な行為に及ぶ
□多量の飲酒や薬物を乱用する
□ 死にとらわれる、自殺をほのめかす

 会社組織である以上、管理職(上司)は部下のストレスを見抜くことが大切。相手の様子が「いつもと違う」と感じたときは、ストレス反応を感じていないか、苦しんでいないか、さりげなく声をかけてみよう。声をかけるときは「あなた、少し変ね」ではなく、「私、ちょっと気になるんだけど」と、「私」を主語にすることが大切。

2.イエローサインの状況 職場かプライベートか?
(1)職場の状況
うつ病は長時間労働を土台にした脳の疲労で起こるが、昇進や異動、出向や転籍、大プロジェクト、大きなミスやトラブルなどの仕事上の出来事が直接的な引き金になる場合が少なくない。また、新人にとっては入社そのもの、中途採用では転職そのものが負担となる。それらの状況に応じた能力を、早く発揮しなければならないというプレッシャーが脳への大きな負担となる。

(2)プライベートの状況
プライベート面の出来事も引き金となる。たとえば、身体の病気やケガによる入院、家族の入院や死亡、子供の不登校や親の介護、夫婦不和などの家族問題、ときには犯罪、事故、天災による心の傷なども。結婚や自宅の購入というめでたいはずの出来事も同様。
 社員の心の不調のきっかけがプライベートなものだと、本人、周囲も気づいている場合がある。その場合、担当者は関わるべきかどうか悩むが、実は、職場のメンタル不全の3分の1は、背景にプライベートのストレスが存在しているのだ。しかし、ストレスがプライベートなものであろうとなかろうと、結果は生産性の低下に結びつく。だから、解決につながる関わり方をすれば会社の利益につながるのである。多くは専門家を紹介するのが望ましい。ローン問題なら弁護士や税理士、介護ならばソーシャルワーカーなど。先進企業では、社内外のEAP(従業員支援プロジェクトを行う会社)で、よろず悩み相談ができるようにして、発病予防につなげている。

(3)公私の区別がつかないケース
イエローサインが多い場合、これらの公私の出来事に目を向けると、問題の所在がはっきりする。しかし、最近では、これら公私の出来事がはっきりしない発病が増えている。長い過重労働で、すでに心身とも消耗している人の中にはささいな出来事に反応する人もいる。どのような状況でもサインをキャッチしたら、メンタル不全かその予備軍の可能性を頭におくべきである。

3.受診の勧め 「眠れない」「食べたくない」「疲れやすい」
 部下にイエローサインが生じたら、上司は「このごろ、どうした?」などと声をかけて話を聴く。この面談の目的は情報収集と受診の勧めであって、決して叱責や教育、叱咤激励ではない。眠れない、食べたくない、疲れやすいという身体の症状を聞き出して、構えず受診や相談を勧めたい。特に、眠れないことは重要である。勧めるには度胸も必要だが「病気でなければいいし、もし病気なら治るだろう」と率直に伝えるのがベターである。