接客サービス業の極意~「お客様のお客様を大切にする」
接客サービス業は、製造物ではなくサービスを提供しているため、「モノ」を届けるのではなく「心」を届ける仕事です。そのため、目の前のお客様にご満足いただくことが重要であることは周知のことですが、「お客様のお客様を大切にする」という視点も持ち合わせていたいものです。「お客様のお客様」とは、たとえば接待の席であれば、接待する側のお客さまのお客様である、接待される側のお客様のことです。
先日、ある鉄板焼きレストランで、シェフが次のようにお話しされたのが印象に残っています。「私たちの仕事で難しいのは、お客様同士の関係を瞬時に見極めて、それにふさわしいサービスをすることです。」「私たちにとっては、お店に来られる方は皆お客様ですが、接待の席でご利用いただく場合は、接待される側のお客様に、まずは気を遣うべきなんです。料理や飲み物をお出しする順番を間違えたり、会計の伝票を接待される側のお客様に間違ってお渡しするなどがあると、接待をする側のお客様に恥をかかせることになります。」「お客様に恥をかかせると、二度とご利用いただけなくなります。」「だから、お客様同士の微妙な関係には非常に気を遣います。」と、言われるのです。
お客様によっては、接待の席であることを店側に事前に伝えない人もいます。それでも、席次や会話、雰囲気で察して対処しなければなりません。そのシェフは、最初におしぼりを渡すタイミングを見逃さないようにしているということです。ここで、誰が上位者なのかが、はっきり分かるからだといいます。「このタイミングを逃すと、最後までわからならいこともあって苦労します」ということでした。
「恥をかく」「恥をかかせる」ことを、私たち日本人はとても嫌います。日本人としてのプライドや誇りは、この「恥」が大きく関与しているからです。
この箱の中には、お客様が楽しみにされている商品が入っています。
ドライバーの皆さん、どうぞ大切にお届けください。
インターネットで注文した商品が届いたときに、箱にこんな張り紙があるのを見つけ、思わずクスッと笑ったことがあります。この商品を発送した企業の気遣いと、これを見た運送会社のドライバーは、どんな気持ちで届けてくれたのかが推し量られました。もちろん企業にとってもドライバーにとっても極めて日常的なことなので「当たり前のこと」として作業をするだけなのかもしませんが…。注文したお客側としてはとても新鮮で嬉しく感じました。これも「お客様のお客様を大切にする」ことに通じているように思います。
タクシーでいえば、企業やお店から「お客様を送迎してほしい」という依頼を受けることがあります。この場合、企業またはお店というのは、いつも贔屓にしていただける大事なお客様ですが、その大事なお客様のお客様に対してサービスをするわけです。もし、そこで失礼があったり間違いがあったりすると、そのお客様に迷惑をかけるだけでなく、依頼をしてくださった贔屓のお客様にもご迷惑をかけることになります。二重に信頼を失うことになりかねません。
ビジネスの世界でも、お客様がお客様を紹介してくださることがあります。私のような研修事業をしている会社なら、お客様からの紹介によってマナー研修などのご依頼をいただくことがあります。その際に、私が期待ハズレの研修をしてしまったら、依頼をくださった企業様だけでなく、ご紹介をしてくださった方にも大変な迷惑をかけてしまうわけです。それは、研修費用をお返しするとかしないとかの問題ではなく、もっと大切な信頼を裏切ることになるわけです。そのため、ご紹介をいただく際には研修当日だけでなく、事前のやりとりや、後日フォローにも非常に気を遣います。
「お客様のお客様」というケースは、すべての仕事において存在するものかもしれません。人と人、企業と企業とのつながりの機微を大事に思う気持ちを持ち続けたいものです。