F&Aレポート

「新型うつ」をとりまく「今」とその対策

「新型うつ」をとりまく「今」とその対策

■ 職場では覇気がなく遅刻や欠勤が目立つ。そのうち精神内科にかかって診断書を書いてもらい、うつだからといって休職を申し出る。一方で休職中でも仕事以外のことは活動的で、海外旅行に出かけたり、好きな勉強に打ち込んで資格を取得したりする。復職が近づくとまた具合が悪くなる。就業規則などの知識は豊富で、いつまで休職が可能なのかを熟知している。うつ症状を示すものの従来のうつとは、どこか違う。そんなうつが社会問題になっている。■「新型うつ」は日本うつ病学会でも「マスコミ用語」だとして明確な分類・定義の決まらないものとして捉えられているが、少しずつ「新型うつ」の症状を示す従業員は、増えているという。今回は「新型うつ」をとりまく「今」とその対策をご紹介したい。(資料 日本産業カウンセラー協会

1.「新型うつ」の背景と社員の育て直し
 「新型うつ」発症の社会的背景には諸説あるが、行き過ぎた成果主義や職場の人間関係など、多様な要因が複雑に絡まり合って発症しているだけに原因の特定は難しい。しかし、要因の一つとして挙げられるものに、近年の日本の企業体質がある。終身雇用制が崩壊し、「会社や組織のために生きる」といった意識が希薄になっている上、雇用状況の悪化は、若者にしわ寄せされ、若年層の非正規雇用者は増加し失業率も高まっている。
 かつて終身雇用制を維持するために行われた社員教育では、「社員は企業が育てるもの」という風潮があったが、終身雇用制が崩壊した今は「社員は自ら育つもの」という見方も少なくない。
 こうした状況の中、成果主義を見直し社内のクラブ活動を奨励するなど、社員同士のコミュニケーション向上に努め、業績を上げている企業もある。また、リワーク支援(復職支援)やメンタル不調者への対策を取り決めるなど、働く環境を整えながら社員の育て直しを標榜する企業もでてきている。

2.「新型うつ」の特徴
(1) 自分の好きな仕事や活動のときだけ元気になる
(2) 「うつ」で休職することにあまり抵抗がなく、休職中の手当など社内制度をよくチェックしている
(3) 自責感に乏しく会社や上司のせいにしがち
「新型うつ」が病気であるかどうかは、専門家でも意見が分かれているが、企業は患者を排除せず適切な診断と対処が必要だと言われている。まして、「うつ」だからという理由で退職に追い込むことは、労働基準法上認められていない。

3.会社の士気が下がる→生産性の低下
 「新型うつ」は、病気ではなく甘えではないのかといった議論もあり、職場への影響も避けられない。ある調査によると「周囲の社員の仕事量が増えた」「周囲の社員の士気が下がった」などの回答が上位をしめている。
 休職中の社員の仕事を肩代わりしている従業員からみれば、仕事以外では活動的にしている「新型うつ」の人に対して複雑な感情を抱くのは当然のことで、結果として仕事へのモチベーションが下がることになりかねない。また、休職中の社員の仕事をフォローすることで過重労働になりうつ病になるケースも報告されている。加えて、休んで遊んでいるようにみえる「新型うつ」の社員と自分を比べ、真面目に働くのが虚しくなり、同じ部署で有給を使う人が一気に増えたという状況も発生していると報じられている。
 こうなると企業側の対策としては、少なくとも
(1)休職した人の仕事を割り振られた人が無理をしていないかしっかり管理をする
(2)新型うつの受容は大事だが、会社側の許容範囲を示し明記する
などが必要で、従業員に不公平感を抱かせるような特別扱いについては避けたいところである。企業側からみれば、デリケートで対処の難しい問題ではある。特に、少数精鋭の中小・零細企業にとっては、「そんな者に関わっている余裕はない」と言いたくなるところだが、今後、社会が益々複雑化・多様化してくる中で、変化に対応し生き残るには最終的には”人”が要である。良い人材を留め、育むためにも、日頃のメンタルヘルスやコミュニケーション、休職中の支援や復職の取り決めなどの労務規定を見直すことから始めてみてはいかがだろうか。