ボストーク税金の話

トランプ税制について

2025年7月トランプ政権が行った税制改正をテーマに、あるところで原稿を執筆したのですが、税理士として興味深いところがありました。日本の税制との比較も含めて書いてみます。

  1. ネーミング
    今回の改正法案は、一つの大きな美しい法案=One Big Beautiful Bill Act=OBBBAとネーミングされました。トランプ大統領は、自分のことを国王と意識しているところがあるので、彼にとって「大きく美しい」という意味なのだと思います。さて、この法案について、歴史はどのように判断するのでしょうか。
  2. 簡単な即時償却制度
    即時償却とは、購入した資産の価額全額を減価償却=経費化できるという制度です。通常の減価償却は、その資産の耐用年数に応じて償却するので、資産購入後、数年〜数十年かけて経費化されますが、この制度を使えば数億円の機械も購入と同時に経費で落とすことができます。
    早い段階で経費化できる制度は、節税という側面でも効果は大きいことになります。日本にも即時償却の制度はありますが、購入する資産が最新型であるなどの要件があり、かつ事務的にも書類を整え、一定期限までに担当官庁に計画書を提出し認可されなければ適用できないことになっています。税理士目線から見ると、この点は米国の方がちょっと美しいかなと思います。
  3. クリーンエネルギー関連税額控除の徹底的な見直し
    民主党バイデン政権が創設したインフレ抑制法により拡充されたEV、省エネ住宅関連の税額控除制度は今年9月末をもって廃止され、太陽光に関する控除制度も1年後に適用廃止となります。地球温暖化を認めないトランプ政権からすれば当然の政策ですが、ここまでハッキリを方向転換するのも米国特有の政治的な展開です。
  4. 次期選挙への目配り
    即時償却の制度の一つに、内国歳入法169条(n)適格生産QPP=qualified productionに不可欠な一部として使用されるQPPについて納税者の選択により即時償却が認められる制度があります。この制度は2028年末までに取得された資産について適用されるのですが、2028年とは次期大統領選挙の年です。この他にもこの法案には、来年実施の中間選挙を見込んで実施を遅らせる政策も盛り込まれています。日本でも政権交代によって税制が変化することがありますが、ここまで露骨に期限を区切るケースはあまりないのではないでしょうか。
  5. 徹底した富裕層向け減税措置
    個人所得税の減税措置、所得税率、チップ・残業代の控除措置、州税控除、遺産税における生涯控除額の引き上げ等を見ると、それらの大半は富裕層に対する大盤振る舞いであることが分かります。遺産税については、10,000千ドル+インフレ調整が、15,000千ドル+インフレ調整と定額部分で1.5倍となります。表現は微妙ですが、米国の濃厚で大味なアイスクリームを思い出すような感じです。
  6. インフレ調整措置
    米国には、インフレによる物価上昇に対応するため、税制や年金、給与などの分野で増額を実施する調整措置が行われています。遺産税については、2018年時点で10,000千ドルが基礎控除でしたが、この調整の結果、13,990千ドルまで控除が膨らんでいました。このインフレ調整については、現在、日本の税制調査会でも議論されています。国内の物価上昇の現状を見れば、税制として具体的に取り込むべき時期に来ているように思われます。

※この原稿はOBBBAの中で個人的に気になった部分だけを取り上げています。申告やタックスプランニングなど具体的な税務手続に当たっては、個別に対応いただきますようにお願いいたします。