苦情・クレームで多いのは、「誤った情報を伝えた」ということではありません。正しい情報であっても「事務的な対応」「伝え方が冷たい」「上から目線(のような対応)」といったことです。つまり、言語情報(話の内容そのもの)よりも、言葉遣いや声のトーン、話すスピードなどの聴覚情報(話し方)による印象の良し悪しが、苦情・クレームを引き起こすのです。もちろん、対面での対応であれば、態度や表情といった視覚情報(見た目)も影響しますが、今回は「言葉遣い」について焦点を当てたいと思います。
なぜ「冷たい」「事務的な」対応という印象を与えるのでしょうか。「緩衝語」と「語尾」を観察してみましょう。今の季節、お客様対応だけでなく、新人や部下の指導・育成についても活用できるポイントではないでしょうか。
「○○してください」は、命令形?
「提出してください」「返却してください」「連絡してください」などの、「してください」。これは冷たく聞こえますか?「してください」は、厳密に言うと敬語であり、丁寧語ですが、受け止め方によっては「命令」されているようにも感じられます。
メールなどの活字としてみると、ますます「命令的」な印象になるかもしれません。命令口調で、事務的な対応をされたという受け止めが、「バカにされた」「軽く見られている」という不快感を醸成し、状況によっては相手の「YES」を引き出せなくなり、コミュニケーションが難しくなることもあります。
「ビジネスの枕詞」+「語尾」の工夫で、印象はガラリと変わる
緩衝語(クッション用語)は、相手に物事を伝える際に、会話の前置きとして使われる言葉です。ビジネスの枕詞と呼ばれることもあります。
依頼をする、要請を断る、反論するといった日常のコミュニケーションの中で、ただストレートに表現するだけでは、誤解を招いたり、不快な思いをさせたりすることがあります。言いにくい内容をやんわりと、丁寧に伝えには緩衝語を活用し、語尾の工夫江尾してみましょう。そうすることで、相手側も内容を受け入れやすくなります。
緩衝語(クッション用語)の一例
「依頼する」
「恐れ入りますが」「ご面倒をおかけしますが」「お手数をおかけしますが」「お忙しいところ恐縮ですが」「ご多忙と存じますが」「ご足労をおかけしますが」「ご都合がよろしければ」「もし可能であれば」「ご無理をお願いいたしますが」「お待たせして恐縮ですが」「お急ぎのところ恐れ入りますが」など
「要請を断る」
「せっかくですが」「あいにくですが」「お役にたてず申し訳ございませんが」「大変ありがたく存じておりますが」「心苦しい限りですが」「お気持ちはありがたいのですが」「ご期待に添えず申し訳ありませんが」「誠に申し上げにくいのですが」など
語尾は疑問文『?』に変換〜語尾は印象に残りやすい
人は「最後に言ったことが最も印象に残る」と、言われています。また、人の感情は語尾に現れやすいともいわれます。「語尾」はとても重要なポイントになります。
「してください」の語尾を疑問文にすると命令口調にはなりません。
- 「明日までに提出してください」
- 「明日までに提出していただけますか?」(疑問文)
- 「お手数をおかけしますが、明日までに提出をお願いできますか?」(緩衝語+疑問文)
1〜3は、同じ内容ですが、印象はすいぶん変わります。多様な人々と関わり合いながら働く時代です。緩衝語のバリエーションを増やし、状況に応じて使い分けること。「してください」は間違いではないのですが、疑問文にすること。日々のコミュニケーションが円滑な方向に進むヒントになるのではないでしょうか。