「音ハラスメント」について、以前ご紹介しました。「足音」「鼻をすする音」「パソコンのキーボードを叩く音」「キャビネットの扉や引き出しの開け閉めの音」など。いずれもご本人は無意識でやっていることがほとんどなのですが、人によっては気になって仕方ない、集中できない、一緒に働きたくないといった問題に発展することもあるもので、これらは「音ハラスメント」「音ハラ」と言われます。
さて、そんな「音ハラスメント」とは、対極にあるかもしれない「無音」について、考えてみます。
「無音」とは、「シーン」の状態です。音はしないのに「シーン」と聞こえることはないでしょうか。人によっては「ピー」「キーン」と聞こえることもあるようです。
人の耳の鼓膜には「蝸牛(かぎゅう)」という、音の刺激を電気的な信号に変換する場所があります。ここは、かたつむりのような形をしているので「蝸牛」と呼ばれます。
蝸牛には約1万5千個の神経細胞があり、そのうちの約5分の1が内有毛細胞、残りの約5分の4が外有毛細胞と言われるもので、役割分担をしています。
音を受け取って脳に伝える役割をする内有毛細胞の働きを助ける外有毛細胞は、1秒間に2万回動き、音を常に探しているのです。音がしない「無音」になると、外有毛細胞は音を探して必死で動きます。これが「シーン」の正体です。
この外有毛細胞の動きが弱くなると、音は聞こえるけれどハッキリしない、言っていることがよく聞き取れないといった状況になります。加齢とともに、聞こえづらい、大人数の会話が苦痛といった兆候が現れるのはこのためです。
宇宙空間では空気がないため、まさに「無音」となるそうです。現代人は、多くの「音」に溢れた生活をしているため、音に悩まされることも多い一方、健康診断の聴力検査のように、一切の音から隔離されると一瞬不安になるということもあります。「音」が聞こえるのは当たり前のことではないことにも気付かされます。