「コロケーション(collocation)」とは、ある程度固定化して使われる言葉の組み合わせのことをいいます。使われ続けていくうちに変化していくものも多くあります。
たとえば、「雪辱を果たす」を「雪辱を晴らす」という言う人が増えています。
「雪辱」は、「辱を雪ぐ」ことを成し遂げるという意味ですが、「晴らす」になると意味不明のものになります。おそらく「屈辱を晴らす」との混同から生まれた言い方なのでしょう。
また、「腹を割る」は、本心を打ち明けるという意味で「腹を割って話す」などと使います。
ところが、あるインタビューで元外交官が「おなかを割って」と発言しました。「おなかを割る」だと「腹筋」や「シックスパック」を連想してしまいますが…。話し言葉でこういう言い方が出てくると、やがては、こうした言い方もありと、なってしまうのかもしれません。
言葉に新しい意味が加わり、新しい言葉の結びつき生まれ、コロケーションは増え続け、変化していくようです。今回は「読み方注意」のコロケーションをご紹介します。
「骨を埋める」 → 「骨をうずめる」「骨をうめる」<結論>「骨をうずめる」が本来の言い方。「骨をうめる」とは言わないよう気をつけたい。
「骨をうずめる」は、死んで埋葬されるという意味だが、転じて、その場所を過ごす、あるいは、ある事柄に一生をささげるという意味で使われる。「骨をうずめる覚悟で再就職する」などといった使い方をする。
「うずめる」は漢字で書くと「埋める」だが、これは「うめる」とも読めるため、「骨をうめる」と言う人がいる。ただ「埋める」と漢字で書かれる例がほとんどである。
「うずめる」:物の上に土などを盛り上げて覆うこと。
「うめる」:くぼめみなどに物を詰めてふさぐ。
中にある物は、どちらも隠れて見えなくなることから、同じような意味に用いられるようになったらしい。現代語としてはほぼ同じ意味で使われるが、「骨をうずめる」が本来の言い方。
「煙に巻く」 → 「けむに巻く」「けむりに巻く」<結論>大げさに言い立てたり、一方的に言い立てたりして、相手を茫然とさせる意味で使われる「煙に巻く」は、「けむにまく」と言うべきである。
質問には答えずに関係ない話をしてけむに巻く。「けむ」は「煙」のことだが、これを「けむり」と読んで「けむりに巻く」という言う人がいるが、この慣用表現は「けむ」のみを使用し、「けむり」は認められていないのである。
ただ「NHKことばのハンドブック」では、「○ケムリ ○ケム ×ケブリ」としていて、「けむりに巻く」を許容している。一方で「NHK間違いやすい日本語ハンドブック」では、「煙にまく:ケムにまく ×ケムリにまく」と「けむり」は不可である旨を明示しており、実際にNHKがどのような扱いをしているのかよくわからない。
なお、火事などで煙に囲まれることを「煙に巻かれる」と言うが、この場合は「けむり」であろうし、新聞も「煙に巻かれる」と漢字で表記している。
「有り金を叩く」 → 「有り金をはたく」「有り金をたたく」<結論>「有り金をはたく」が本来の言い方であるが、「有り金をたたく」と言っている人もいて、国語辞典でもこの言い方を認めるものが出てきている。
「へそくりをはたいて腕時計を買う」などと言うとき、これを「はたいて(はたく)」ではなく「たたいて(たたく)」と言う人がいる。
そもそも「はたく」と「たたく」とでは、手や手で持ったもので何かを打つという意味では共通しているが、ニュアンスがかなり異なる。「はたく」は、払いのけるということで、ゴミや誇りをたたいて落とすという意味。一方「たたく」は、なんども繰り返して打つということで、「はたく」の払いのけるという意味はなかった。
ところが「はたく」も「たたく」も、漢字で書くと「叩く」となる。国会会議録では「有り金をたたく」の例はないが、「財布をはたく」「財布をたたく(持ち金を使い果たす)」の使用例は見られる。「有り金をたたく」という言い方はジワジワと広まっていて、誤用とは言えない状況のようである。