「コロケーション(collocation)」。聞きなれない言葉かもしれませんが、ある程度固定化して使われる言葉の組み合わせのことをいいます。このコロケーションを使いこなせるかどうかが、表現力や文章力のアップのコツになります わかりやすく説明するためには、さまざまな技術が必要ですが、言葉と言葉の結びつきを誤ると、せっかく論理的で優れた説明や文章も台無しになることもあります。 たとえば、英語なら「heavy rain(強い雨)」「fast food(ファストフード)」は、自然で流暢な表現ですが、「strong rain」「quick food」は、そうではありません。
日本語のコロケーションについては、「的を射る/的を得る」「心血を注ぐ/心血を傾ける」など、微妙に揺れているものが多くあります。今回は、「実はどっちも正しい」ことばの結びつきをご紹介します。いずれも揺れを認めつつ、本来の言い方を知っていることが、より良い表現につながるのではないでしょうか。
「的を射る」「的を得る」
<結論>「的を射る」が本来の言い方ではあるが、多くの人が使う「的を得る」をどう考えるのか、もっと検討してもいいのではないか。
的確に要点をとらえることを「的を射る」と言う。国語辞典では、「的を射る」が正しく、「的を得る」は「当を得る」との混合で、誤用とするものが多いが、国会会議録で検索すると「的を得る」は228件ヒットする。「的を射る」が616件なので、まだまだ「射る」派が多いといえるが、昭和、平成、令和の使用状況を見ると、「得る」派は平成になってから77%もいるという。「的を得る」は口頭語でかなり広まっているということかもしれない。「三省堂国語辞典」第7販では「的を得る」を挙げている。
「采配を振る」「采配を振るう」
<結論>「采配を振る」が本来の言い方ではあるが、「采配を振るう」もかなり広まっており、これを認める辞典も出てくるであろう。
「采配」とは、大将が軍勢の指揮をとるときの持ち物。多くは柄の先に裂いた白紙などを束ねて、房状に取り付けている。これを手にした指揮官が振り動かして合図をするので、「采配を振る」という言い方が生まれた。ところが最近は「采配を振るう」という言い方が、かなり広まっている。文化庁の「国語に関する世論調査」(2017年)でも、「采配を振る」を使う人が32.2%、「采配を振るう」を使う人が56.9%と、逆転した結果になっている。
そもそも「振るう」は棒状のものを縦横に駆使して用いるという意味で、「采配を振るう」を使ってもおかしくはない。「振るう」を認める辞典は今後増えていくと思われる。
ざっくり結論だけを紹介しよう!
- 「出る杭は打たれる」「出る釘は打たれる」
<結論>「出る杭は打たれる」が本来の言い方ではあるが、「出る釘は打たれる」も古くから使われていた言い方である。したがって、「釘」も完全な誤用とまでは言えないであろうが、改まった文章などでは「杭(出る杭は打たれる)」を用いるべきである。 - 「めどがつく」「めどがたつ」
<結論>どちらもよく使う言い方で、どちらかが間違いということはない。 - 「絆が強まる」「絆が深まる」
<結論>「絆が強まる(を強める)」が本来の言い方だが、「絆が深まる(を深める)」も誤用とは言えない。 - 「舌の根の乾かぬうちに」「舌の先の乾かぬうちに」
<結論>前に言った事柄に反することを、すぐに言ったり、したりするときに、非難の気持ちを込めて「舌の根の乾かぬうちに」という。誤用とされる「舌の先の乾かぬうちに」も、誤用だと言い切る根拠は存在しない。ただ誤用と思っている人が多いので、使用を避けた方が無難であろう。 - 「頭角を現す」「頭角を出す」「頭角を抜く」「頭角を上げる」
<結論>「頭角を現す」は出典のある語で本来の言い方であるが、バリエーションも多く、それらをすべて誤用と決めつけるのは疑問がある。(「微妙におかしな日本語」神永暁著 草思社文庫)