F&Aレポート

お菓子の話 1 〜日本生まれのショートケーキ

 今年もクリスマスシーズンを迎えましたが、ある調査によると、今年のクリスマスの予算は、3年ぶりに2万円を下回り、1万6329円だそうです。これはクリスマスが平日になることと、その後の年末年始の9連休に備えるためではないかと言われています。

 その予算のうち何割かは、クリスマスケーキに当てられるものと思われますが、日本では「クリスマス=ケーキを食べる」という習慣が、すっかり根付いています。そのクリスマスケーキの元祖ともいえる、白い生クリームに赤いいちごのショートケーキは日本独自のものです。

 羊羹で有名な虎屋の社長は著書の中で「喧嘩をしながらお菓子を食べる人はいない。お菓子は平和の象徴なのだ」と、言っています。実際にお菓子にまつわる幼少期の思い出を語るときも、人は笑顔になっています。厳しいこともたくさんあった2024年ですが、甘い話題で締めくくりたいと思います。(「万国お菓子物語」吉田菊次郎著 参考)

日本の銘菓 ショートケーキ

 日本における洋菓子の代表は何と言っても、いちごを乗せたショートケーキだろう。どこにもありそうでいて、世界のどの国にも見当たらない。思えば不思議なお菓子である。

 ではいつ頃、どんなプロセスで完成され広まったのか?

 この菓子の組み立ては、スポンジケーキと生クリームといちごである。スポンジケーキは南蛮菓子のカステーラとして伝わって久しい。またいちごも、江戸末期にオランダ人によって伝えられていた、問題は生クリーム。

 幕末から明治初期にかけて牧場はすでに開かれていたから、生クリームはほんの少しではあるが、手に入れることはできた。ただ、お菓子に使うほど潤沢な量は望めなかった。大正13年ごろ、アメリカのデラバル社製遠心分離式生クリーム製造機が輸入された。折しも、ちょうどその頃、フランスから一人の製菓職人が帰ってくる。そして、彼の手により昭和11年(一説には6年)、ショートケーキの名で売られ始めたという。

 その後、日本人の口に合うよう試行錯誤を繰り返すうち、日本人が美味と感じる柔らかくしっとりとしたケーキが誕生した。飾りのフルーツもいつしか彩りも形もいい、程よい酸味を持ついちごに落ち着いていったという。

奇妙なネーミング 「ショート」の由来

 「ショート」とは、本来「サクサクした」という意味で、決して「短い、小さい」というわけではない。したがって、ショートケーキとは、そもそもクッキー状のお菓子を指す。

 では、なぜこの呼び名がスポンジ使用のクリーム菓子に置き換わったのか?この点については残念ながら明確な答えが見つからない。

 ただ、ヒントらしきものがアメリカにある。ビスケット生地にいちごとクリームをはさんだ、ストロベリー・ショートケイクと呼んでいるものがあるのだ。思うにこのビスケット生地を日本人好みの柔らかいスポンジに置き換え、まわりも全部クリームで塗りたくり、呼称の意味は深く考えず、そのままショートケーキとして通しちゃった……。いかにもありそうなことである。

 それか、もっと単純に、スポンジケーキとクリーム、フルーツがあればでき上がる、すなわち「ショートタイムにできるお菓子」と、解釈されてしまったとか?

 いすれにせよ本格的に広まったのは、生クリーム自体の供給が潤沢になってからのこと。またこうした日持ちのしないものを安心して販売するにあたっては、冷蔵庫、冷蔵ショーケースの普及が不可欠な条件になってくる。それらがお目見えするのがようやく昭和30年頃のことで、これを境としていわゆるショートケーキを含めた生菓子類が、われわれの生活に一気に広まりなじんでいったのである。

 そして今や、ショートケーキは、プリン、シュークリームと並ぶ定番中の定番として、わが国の洋菓子を席巻するにいたっている。

 近頃は誕生日やクリスマスはもとより、ひな祭りなどの行事でさえも、この種のデコレーションケーキの商戦となりつつある。ここまで浸透すれば、もはや日本の銘菓の名に恥じない不滅の名品といっていい。

 それにしても、プリン、シュークリーム、ショートケーキの御三家は、揃いも揃って勝手な解釈の和製外国語というのも面白い。お菓子な国ニッポンか?

 つまらんことにはこだわるな、お菓子なんて食べてうまけりゃそれでいいではないか?