F&Aレポート

「自粛警察」ならぬ「マナー警察」?

「自粛警察」ならぬ「マナー警察」?

 「自粛警察」とは、コロナ禍で生まれた俗語ですが、感染症の流行に伴う行政による自粛要請に応じない個人や商店に対して、偏った正義感や嫉妬心、不安感から私的に取り締まりや攻撃を行う一般市民やその行為、風潮を指します。

 同様に「マナー」についても、マナーを型にはまった儀礼的なものだと捉えると、違うやり方をしている人を否定したり、非難したりするようになり「マナーの本質」から外れていくものです。

 先日、「お辞儀のときに、手を体の前で左手を上、右手を下に組んでいたら、そこの流派では『右手が上』だと叱られました。どちらが正解なのでしょうか」という質問を受けました。

 答えからいえば、「どちらも正解」なのでしょう。日本では一般的には、利き手(右手)を左手で抑えることにより、相手に対する敬意を表し、慎しみ深い形であると考えられていますが、流派によっては「右手が上」と教えているところもあります。「利き手である右手を上に重ねた方が、何かあったときにすぐに手が出て対応しやすいから合理的で良い」と、されているのです。

 国や地域によっても違いがあります。日本で正しいとされていることが、海外へ行くと通用しないこともあります。

 マナーの本質は「思いやり」です。「思いやり」は、相手にとって心地の良い状態を考え、行動で表すことです。それは状況によって異なることもあります。そのため、マナーの答えはひとつではないのです。

 たとえば、タクシーの上座は運転席後ろのシートですが、人によっては助手席側後ろのシートを好まれる方もいます。その際は、無理に上座を勧めるのではなく、助手席側後ろのシートにお座りいただくのが「マナー」であり「思いやり」でしょう。

 マナーを知っているからといって押し付けたり、違うやり方の人を非難するのは、「自粛警察」ならぬ「マナー警察」でしょう。それはお互いかなりストレスになります。それぞれの立場や考え方を尊重した上で、その場で最良と思われるものをチョイスし認め合うことが、肝要なのではないでしょうか。