F&Aレポート

入社式の社長挨拶

 4月になり多くの企業で新入社員を迎え、入社式が行われました。入社式に親が同席する。アバターが司会をする、新入社員と握手を交わすなど、最近の入社式ではいろいろ工夫がされているところもあるようですが、「社長挨拶」は、古今東西変わらず行われています。社長自身の思いや言葉が、新入社員、あるいは従業員にどのように響くか気になるところです。また、社長の言葉によって襟を正し、モチベーションが上がり、その後の社会人生活に影響することもあるでしょう。今回は、株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長 柳井正氏の入社式の挨拶をご紹介します。(参考 時事通信映像センター)

<話し方講師、スピーチライターとしての主な気づき>
1.誰かが準備した原稿では、自身の言葉で語られているように感じます
2.声高ではありません。体験を通して、信念に触れられています。説得力があります
3.挨拶全体は20分程度でした。原稿はたまに見る程度。流暢ではありませんが目線はほとんど会場を見ています。読むというよりも「語る」挨拶という印象

 入社していただき本当にありがとうございます。我々は企業理念を一番大事にしております。企業理念に共鳴してください。自分の方針にしてください。仕事をする上で正しい考え方を持ってください。今日は皆さんの一生に役に立つ話をしたいと思っています。

 学生と社会人はまったく違う。学生は教育機関にお金払って、教育を受けるという受け身ですよね、社会人は恩恵を受けるのではなく社会に貢献して自立しないといけない。

 大事なことは、仕事の基本を身につけるということ。皆さん本当に頭がいい顔をしています(笑)いい大学を出てらっしゃると思うんですけどもね。しかしながら、ちょっとできる人が一番問題なんです。学校を卒業したばかりの人は、自分は優秀でなんでもできると思いがちです。でも、そういうことはありませんから。自分はまだ半人前、もっといえば社会人としてなんにもできてないって、いう風に思ってください。

 知っていることと、できることはまったく違います。皆さん将来はリーダーになってもらわないといけない。そのためには作業、動作を完全にマスターすること。ビジネスの判断基準というのはお客様です。お客様が満足しない限り、仕事をやってもそれは仕事になりません。すべての原点は現場にあります。店舗です。店舗経営とは、時代に合った商品とは何かを考えて販売計画、稼働計画、レイアウト計画を考えてスタッフと一緒になって結果を出し、検証して改善する、そういうプロセスの繰り返しだって思います。

 店舗経営と会社経営は変わりません。接客、品出し、レイアウト、デイスプレー、清掃、人の採用、教育、自分ですべて最高水準でできるようになってください。知っていてもできなきゃダメですよ。できなければ人の指導はできませんからね。

 笑顔を出す練習をしてください。目と目を合わせてください。地味でも基本的なことができて本気で取り組む姿が伝わって、初めて人は尊重してくれます。周囲の人は皆さんに協力してくれます。反対に、仕事を軽視して陽のあたる場所ばかり出て行って、仕事を適当に済ましていると絶対に成長しません。皆さんが店舗でキャリアをスタートする採用の理由がここにあります。

 重要なのは、チームで仕事をすること。集団で仕事をするのは簡単にできますが、チームで仕事をするのは簡単にはできません。お互いに信頼関係がないとできません。

 店舗の仕事は一見、非常に単純です。毎日毎日、自分は大学や大学院を出てなぜ、こんなことするの?ということがあると思います。でもそれは間違いです。もう一度言います。皆さんは社会人として何も知らないし、何もできません。お客様に対して役に立つ仕事ができない限り、皆さんの言うことは誰も聞いてくれません。信用もしてくれません。

 僕は大学を卒業して大手スーパーで仕事をしましたがすぐやめて、故郷に帰って父の紳士服の店で働き始めました。生意気な態度だったんで、7人いた従業員の6人がやめました。すべての仕事を自分でしなければならなくなりました。接客、品出し、店の掃除、経理、財務、マーケティイング、全部です。

 店の経費がどういうことに使われているのか、この商品はなぜ売れないのか、商売の原点を、身を以て考えるようになりました。今に至るすべての出発点はここにあります。

 この中には天才はいません。皆さん凡才です。ただし、凡才はチームになると強くなります。自分と相手の特徴、強み弱みを知って、ワンチームで仕事をする、自分はどういう人間でどうなんだと開示することと、相手の身になって話を聞くこと。

 店の仕事の基本からすべて教えてもらって完全にできるようにすること。基本動作ができない人は何やってもダメです。メンバーから信頼されません。皆さんのいうことを聞いてくれません。店で働くチームの仕事がより効率よくできて、お客様がより喜んでもらえる、店の収益が上がって、みんながもっと良い収入を得られる、より良い社会になる。そのために何をしたらいいのか、自分の頭で考えて行動してください。

 皆さんは世界中の店舗でグローバルに仕事できます。日本は日本だけで生き残れません。輸入に全部頼っています。資源は人間しかありません。人間がしっかりしないと、日本は生き残れません。日常の仕事に求められるような基本的な能力は世界共通です。

 英語は世界の共通語です、道具です。仮に一人で海外の店舗に赴任しても、そこでの店の運営、事業の組み立てをチームで実現できるようになってください。

 我々は世界中であらゆる人に密着したライフウエアを、あらゆる人のカテゴリーで、あらゆる価格帯で実現したいと思っています。より快適な生活、持続可能な社会を実現する。そういう使命をもった企業です。そういうことを全員が自覚して、使命感を持って仕事をしていただきたいと思っております。世界中の店舗で最高のチームを作ってください。私たちのファンを増やしてください。そういう仕事を期待します。みなさんの活躍を確信しています。心から楽しみにしています。新たな出発の日に私からのお祝いの言葉とします。(株式会社ファーストリテイリング 代表取締役会長兼社長 柳井正氏)

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