ある衣料品メーカーで、一年のうちの半分を「夏」と見て、製作プランやデザインを練り直すという話を聞きました。実際には、5月から10月が、「夏と見込まれる」期間になるようです。一番心地の良いシーズンである、春と秋がぐっと短くなるということですね。体感としてもよくわかります。さもありなんと言ったところです。
こうなると、日本は四季ではなく「二季」です。夏と冬の移行期に、ちょっとだけ「春」と「秋」が加わる。季節感という言葉もますます薄らいでいくのかもしれません。
気候変動への対策についての議論はさておき、こう暑さが続くと良いこともあるのです。それは「暑いですね」の一言が、『共感ワード』になることです。
たまたまバス停に居合わせた人でも、ジムのロッカーで一緒になった人でも、知らない人同士でも、ささやかなコミュニケーションになります。
まして、職場ならなおのこと。顔は知っていても話をしたことがないという人でも、「暑いですね」の一言で、場が和むことがあります。
『江戸しぐさ』では、『天気の話』は人間関係を円滑にするための気遣いの技術だったと言われています。天気の話は、会話の入り口として相手を傷つけずに交流深める手段であり、同時に、気候に寄せた共感を通じて、相手との距離を自然に縮めることができる、言わば「魔法の言葉」でもありました。
難しいことは考えず、「暑いですね」と声をかけてみましょう。できるだけ実感がこもった方がいいと思います。さわやかな笑顔で「暑いですね」と言われても、違和感があります。半分ため息なんかをつきながら、「ハァ〜、暑いですねぇ」と、顔を歪めて暑苦しく言ってみるのが良いと思います。
きっと相手の方も「いや、ほんと暑いですね」と、暑苦しく返してくれることと思います。そのあとは、会話が続かなくとも大人としての気遣いは果たしています。
今日も「暑いですね」で、一日を乗り越えていきましょう。