F&Aレポート

スムーズな「仕事」と、ストレスのない「人間関係」のために 大人の「国語力」を身につける 1

令和6年能登半島地震により犠牲となられた方々にお悔やみ申し上げるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。被害を受けられた皆様の安全と一日も早く平穏な生活に戻られますことを切に祈念いたします。

 新年早々「国語」と聞くと小難しいイメージを抱く人もいるかもしれませんが、広い意味で国語を学ぶということは、「読む」「書く」「聞く」「話す」という能力をつけることを言います。これらは「読む」と「書く」、「聞く」と「話す」がセットになっています。能力開発や高齢者の問題に提言を続ける精神科医である和田秀樹氏の「国語力をつける勉強法」(東京書籍)、また「国語力」にも関わる「母語」の重要性について井上ひさし氏「日本語教室」(新潮新書)から、2回にわたり本テーマにふさわしいエッセンスをいくつかご紹介します。

1、「母語」と「母国語」のちがい

 母語について確認しておきましょうね。「母国語」と「母語」は、まったく質が違います。私たち人間の脳は、生まれてから三年ぐらいの間にどんどん発達していきます。生まれた時の脳はだいたい350gで、成人、二十歳ぐらいでは1,400gぐらいになります。ちょうど4倍ですね。4倍にもなるのに、なぜ頭蓋骨がバーンと破裂しないのかというと、脳はあらかじめ折りたたまれていて、泉門(せんもん)という隙間がちゃんとある。そこが発達していくから大丈夫なんです。そんな風にして脳がどんどん育っていくときに、お母さんや愛情をもって世話をしてくれる人たちから聞いた言葉、それが母語です。赤ん坊の脳はまっさらで、すべてを受け入れる用意がしてあります。ですから、日本で生まれても、まだ脳が発達していない前にアメリカに行ってアメリカ人に育てられると、アメリカ英語がその子の母語になります。赤ちゃんは自分を一番愛してくれる人の言葉を吸い取って、学びながら、粘土みたいな脳を細工していくわけです。(井上ひさし著「日本語教室」)

※「母語」は「最初に覚えた言語」であって、国籍とは関係ありません。「母国語」は国籍と同じ言語を指します。「母語」は幼少期より習得して人の思考をつかさどります。

2、大人が「国語」を学ぶ二つの目的

★自分の考えや気持ちを正確に伝えるには「書く」力を身につける
★納得、理解を求めるなら「話す」力と、「聞く」力でコミュニケーションを深める

「読む」と「書く」、「聞く」と「話す」。これらの能力には共通する二つの目標がある。

 一つは、自分の考えや気持ちを正確に伝え、相手の考えや気持ちを正確に受け取ることである。たとえば、「話す」ことは日常会話やプレゼンテーションなどの場で、会話を通じて自分の考えや気持ちを相手に正確に伝えることが目標になる。

 もちろん、このとき言いたいことをただ伝えればいいというものではない。伝達の目的は、相手にわからせること、納得させる、理解させることにある。そのことを前提に考えると、もう一つの目標として、相手とのコミュニケーションを深め、かつスムーズに行うということが重要になる。

 自分の考えや気持ちを相手に正確に伝えるというのは、実は「書く」という能力と密接に関係していて、その能力がそれなりにあれば簡単に達成できる。わかりやすい文章が書ければ、それをそのまま「話し言葉」で表現することで、わかりやすい話ができるからである。ところが、話すことに長けていれば書く能力も優れているかというと、そうではないらしい。日常的な会話なら多少のごまかしはできる。しかし、書いて伝える場合は、それができないのである。そういう点では「書く」ほうが、「話す」よりも高度なものに思えるかもしれない。

 相手とのコミュニケーションを深めるという点で考えると、「話す」ことのほうが「書く」ことよりも高度な能力が求められることがわかる。コミュニケーションをうまくやるには、その場で相手が喋ったことに切り返すなどのレスポンスが求められる。それ以前に、相手の話を聞き、正しく素早く理解するという力が必要になる。同時に、「相手に不快感を与えない」ということも大切である。これは「話す」「聞く」の両方に求められる。知らない相手に対して適当ではない表現をしたり、バカにしたような態度をとれば、いかに説得力のある話し方をしても正しく伝わることはない。そもそもこれではコミュニケーション自体が成立しないから、自分の言い分を伝えることなど不可能である。実は私たち敬語を学ぶ目的は、まさにここにある。「語彙力」「要約力」「意見を持つ」次回ご紹介します。

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