F&Aレポート

「人材育成に役立つ 話し方・聴き方」

「人材育成に役立つ 話し方・聴き方」

■音響心理学の「カクテルパーティ効果」をご存知ですか?カクテルパーティのような賑やかな席でも、ふとした拍子に別のところで行われている会話が聞こえてくることです。それは、大抵自分にとって興味のある話題だったり必要な情報だったりするわけです。この効果を生活やビジネス、人間関係に活かすことができます。今回は、私自身の最近の講演録からご紹介します。

人心掌握~「名前」を呼ぶ、感情を「聴く」

  私は日頃、企業・個人を対象に、マナーや話し方を指導していますが、一番大切なことで私も心がけていることは「名前を呼ぶ」ということです。

 挨拶でも会話でも、あえて名前を呼ぶことでメッセージ性が強くなり、相手の心に響きやすくなります。「田中さん、おはようございます」「先日はありがとうございました。川本さん」というように。名前を呼ぶと、ただの挨拶ではなくなるのがおわかりでしょうか。

 名前は人間にとってとても重要な響きがあります。雑踏の中でも自分の名前が呼ばれたら気がつきますし(カクテルパーティ効果)、自分の名前が間違って呼ばれたり、記載されたりするとなんとなく違和感があるものです。

 アメリカの鉄鋼王アンドリュー・カーネギーは、そんな名前の重要性をよくわかっていて、この心理を利用することに長けていました。

 スコットランド生まれのカーネギーは、少年時代にウサギを捕まえましたが、やがてそのウサギがたくさんの子どもを産んで餌に困ると、近所の子供達にウサギの餌をたくさん持ってきてくれた子の名前を子ウサギにつけると公言しました。この計画はもちろん大成功でした。その後、経営者となったカーネギーは、下請け社員に至るまで名前を憶えて呼びました。カーネギーの在任中は一度もストライキが起きなかったと言われています。

 人は名前を呼ばれることで、自分は大切にされているという気持ちになり、(相手に)好意を抱くようになります。日本でも、田中角栄はよく人の名前を覚えていたと言われます。名前を呼ぶことは人心掌握の鍵を握っているのです。

 つづいて、人の話の「聴き方」については、ポイントは3つです。

 まず一つ目「人の話はヘソで聴け」と言われる通り、身体を向けて顔を見て聴きます。いくら一生懸命聴いていても、目と手がパソコンに向かっているようでは、その誠意は伝わりません。

 二つ目、「復唱、要約」をしながら最後まで聴きます。「こういうことがあったのですね」「今までの話をまとめると、こんな感じですかね」など。復唱や要約をすると、認識がズレていてもすぐに修正できます。また、「理解してもらっている」という信頼が生まれます。

 そして三つ目、「“事実”と“感情”を分けて」聴きます。相手の話を頭の中で整理しながら聴くのです。これはカウンセリングでは徹底的に訓練する聴き方の一つですが、クレーム対応などにも有効です。この時、得てして男性は「事実」の方に重心を置きがちですが、「感情」を受け止めてあげることで、人は「しっかり聴いてもらえた」という安心感を持つことができます。

 基本的に人は、「人は話を聴かない生き物」です。自ら聴きたいと思うのは、自分にとってメリットのある話か、自分が好意を抱いている人の話のみです。

 だからこそ、話す側は工夫が必要ですし、聴く側は一生懸命聴くことで、信頼され、好感を持たれます。「聞き上手」という言葉通り、「聴く」ことは意外に難しいことです。

 その昔、松下幸之助氏は、「宇宙のリズムに乗っている人は強い。そうでない者は弱い」と言ったそうです。これに対し新入社員が「どうやったら宇宙のリズムに乗ることができるのか」と質問すると、「それは、人の話を素直に聴くことや」と答えたそうです。

「人の話を素直に聴くこと」「名前を呼ぶこと」これらは、人間関係全般に通用する人心掌握の技術と心の在り方といえるのではないでしょうか。