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湊町レター Letter From Minato-machi 2022年10月1日 №135

 10月、神無月となりました。神々が出雲に集まって神がいなくなるという説は、出雲大社の御師(参拝などの世話をする神職)が全国に広めた語源俗解(今で言うフェイク、言語学的な根拠がないこと)であり、平安時代以降の後付けとされます。6月の水無月同様、「神の月」という意味であることがWikipediaに書かれています。それはともかく、今年も残すところ3月となってしまいました。ここまで夏の暑さを引きずってきましたが、これから気温も下がり、秋も深まってくるでしょう。

 さて、英国のエリザベス女王が亡くなりましたが、女王が最後に会ったのは首相になることが決まっていたリズ・トラス氏と言われています。今月はその英国で起きた金融市場の混乱について触れます。トラス新政権は、エネルギー高騰対策として半年間で600億ポンド(9兆円)、所得税減税や法人税増税凍結で450億ポンド(7兆円)の大型減税を打ち出しました。英国のインフレ加速と財政悪化を見通した市場は、英国通貨のポンドで対ドルとして32年ぶりの安値を付け、金利も上昇しました。そのため、英国中央銀行は予定していた国債売却を中止し、逆に緊急購入を行うことで金利を安定化させる政策を取りました。この混乱により、NYの株価も下落が続いており、今後、世界的な規模で株、為替、金利(債券価格)といった市場でどのようなことが起きるのか、予断を許さない状況です。

 英国で起きた混乱は、自国通貨の値下がり、金利上昇圧力と財政赤字という点で日本の状況と似ています。違うのは、日本の財政赤字は、IMF推計値によると政府債務残高としてGDP比262.5%もあるということ(英国は87.8%)、逆に外貨準備では日本は経常黒字国で180兆円の外貨準備を持っているのに対して英国は12兆円程度という点です。

 先日、日本の財務省は、円安の進展にブレーキをかけるため9月22日に3兆円近い為替介入を行ったと発表しました。この結果、1ドル145円まで進んでいた円安は140円台まで戻りました。マスコミはその影響が為替を動かすかのように書いていますが、日本での1日あたり為替取引量は67兆円くらいあり、3兆円程度の円を買い進めても、市場の大きな流れを止めることはできません。ただ、一瞬上がってしまった円を買ってしまうと損失を蒙るかもしれないという市場参加者への心理的効果を狙うだけのものです。そのため数日でほぼ介入前の水準に戻りました。また、市場原理を重視する先進諸国からは常に批判的に見られる方法でもあります。

 為替安は物価上昇に繋がり、金利上昇=株安となる可能性があります。財政赤字も含めて、どれも簡単にコントロールできる代物ではありません。台風のように過ぎ去るのを待てば良いものではないのです。現時点で最も注意すべきは財政と金利の上昇。今後も機会を見てマーケットの状況をお伝えしたいと思います。