風薫る5月となりました。さわやかな風と初夏の香り。世の中は相変わらず騒然としていますが、太陽がまだ優しく感じられるこの季節は1年の中でも貴重な時間です。
さて、日経新聞朝刊の最後に「私の履歴書」というコラムがあります。政治、経済、文化やスポーツなどで大きな業績を残した人物がその半生を語るものです。先月はソニーの元社長である平井一夫氏が登場していました。経営者の傾向としては、役職の経歴を語る人事系か、自分が手がけたプロジェクトがこんなに成功したという自己PR系になりがちです。サラリーマンの意識を理解するのにはとても役に立つのですが(これは皮肉)、経営という面ではあまり参考になりません。しかし、同世代でもある平井氏の話は、とても興味あるものでした。
トランジスタから始まり、ウォークマンで一時代を築くソニーはエレクトロニクス分野の覇者でした。アップル創業者であるスティーブ・ジョブズも当初はソニーを強く意識していました。そのソニーでは異端だった音楽、ゲーム分野からソニー本社に入った平井氏が社長を務めるにあたり、関係者からの圧力はすごかったようです。中でも、ソニーの黄金時代を知るOBからの非難の声がとても強かったため、最後は社長がOBと話をすることになるのですが、その後を受けてのコメントが、下記のようなものです。
「結論から言えばOBの話を聞いて新しい経営施策が生まれるほど甘いものではない。ソニーをつくってきた先人に敬意は持つが、ノスタルジーだけではソニーはよみがえらない。いつまでも『ウォークマンを生み出したソニー』の幻影を引きずっていては再建はおぼつかないし、世界と戦えない。これが私が出した答えだった。」(私の履歴書24「パソコン撤退」より)
今の世界経済は、トランプ2.0の米国を中心に大きく揺れ動いています。株式、為替、債券といったマーケットをちょっと深く眺めていくと、今まで世界の中心にいた米国のパワーが落ちていっているのがわかります。大統領からは強気の発言ばかり聞こえてきますが、お金の流れは素直です。人心も恐怖が漂う米国から離れていっています。今後、この動揺が実体経済につながっていくと予想されます。その結果、日本は米国だけを頼るのではなく、自主的に経済や外交を立て直していかなければならなくなると思われます。そこで必要なのが、この平井氏の言葉です。日本繁栄のシンボルの一つがソニーでした。しかし、ソニーはテレビで、半導体で大変な赤字を出し、もがき苦しみます。復活の詳細はネットなどでご覧いただくとして、最終的に平井氏はソニーの方向性を大きく転換し復活に導きます。経営者としては過去の成功体験にこだわりすぎてはいけません。日本の企業に求められるのは、スマート家電で日本の市場を席巻するような中国企業の勢いです。過去を振り払ってでも前に進む勇気、元気、やってみようと思う気持ち、それを支える技術力ではないでしょうか。これは大企業だけでなく、中小企業にこそ求められるものです。
久しぶりに5月の風のようにさわやかな経営者の言葉に出会えました。