「ウッドチェンジ」~クレヨンからお酒、木造高層ビルまで
SDGsは世界が取り組むべき課題である一方、言葉だけが一人歩きしているのではないか、商魂たくましく利用されているだけではないか、という声も一部で聞かれます。そんな中、3月に林野庁は、木の使い道を広げようというキャンペーンの一環で、東京・代官山の書店で「ウッドチェンジ」という催しを開催しました。会場には、スギの繊維を糸にして作ったマスクや木材を顔料にしたクレヨン、それに間伐材を薄く削ったストローなどが展示されていました。技術革新は確実にSDGsの実現に向けて歩を進めています。NHKニュースからレポートします。(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210422/k10012990041000.html)
1、なぜ木の利用なのか~「脱炭素」
木は成長のために「光合成」を行う過程で二酸化炭素を吸収して、酸素を排出しますが、成長のピークを超えると、二酸化炭素の吸収量は徐々に減っていくことが分かっています。
森林には「天然林」と「人工林」があり、多くの「天然林」は生物多様性の観点からも安易な伐採は控えるべきだとされていますが、「人工林」は使うために植えられています。
しかし、日本では木材需要の低迷などもあり、人工林の半分以上が植えられてから50年を超え、高齢化が進んでいます。このため、日本の森林の二酸化炭素の吸収量は年々減っているとされています。政府の目指す脱炭素社会を実現するためには、成熟した木を有効に使い、新たな木を植えることで、吸収量を回復させることが重要だとされています。
2、木造の高層ビル
新たな木の使いみちとして注目を集めているのが、木の「高層ビル」です。高層ビルは耐火性などの問題から鉄とコンクリートで建てることが一般的でした。しかし最近、5階建て以上の建物に求められる耐火性能を持つ木の部材が開発されたことなどから、木造での建設も可能になりました。
東京・銀座では、東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場のデザインを手がけた建築家の隈研吾さんがデザインを監修した12階建ての木造ビルが建設中です。隈さんは「銀座に森を出現させたい」とし、今年の冬に完成予定です。さらに、東京・日本橋でも三井不動産と竹中工務店が17階建て、高さ70メートルという国内で最も高い木造ビルの建設を検討しています。木に囲まれながら、都心でひとときを過ごすというのが当たり前となる時代が近づいてきています。
3、木からできたお酒
「木材」以外の木の活用も広がっていて、その1つが「お酒」です。つくば市にある国の研究機関、森林総合研究所で開発が進んでいます。クロモジを使ったお酒の香りは、柑橘系の爽やかな香りがします。もともと香料にも使われている木なので、その良さが存分に出ているのです。作り方は、木の粉を特殊な技術を使ってすりつぶし、ワイン用の酵母などを入れて5日ほど発酵。その後、蒸留して完成です。杉や桜、白樺などでも実験していて、それぞれ味や香りが異なることから、地域の特産品にもなると期待されています。
商品化すれば世界初ということで、酒造会社などから問い合わせが相次いでいて、早ければ再来年にも商品化する可能性があるということです。
4、木のプラスチック?
杉の木くずに薬剤を混ぜるなどしてできた「改質リグニン」という素材は、ほかの物質と組み合わせることで、石油由来の高性能なプラスチックの代わりとして使うことができ、環境に優しい新素材として注目されています。
例えば炭素繊維などと組み合わせると軽くて強い部材になり、すでにスピーカーの振動板に使われているほか、自動車の外装に使う実験も行われています。また、粘土と混ぜると、電子基板用のフィルムとして使うことができ、プラスチックで作る場合と比べて7割ほど安くできます。夏には量産できるか実証するための工場も完成予定です。
こうした木を生み出す人工林の多くは、戦後、草木もない荒れ果てた山だったところに先人たちが将来のためにと整備してくれたものです。その努力に感謝しながら木をありがたく使い、そして次の世代のために新しい木を植える。その繰り返しが、脱炭素や地球の温暖化防止につながっていくのでしょう。