F&Aレポート

ペットロスと向き合う

ペットロスと向き合う

 意外に思われるかもしれませんが、日本人の3割はペット嫌いだというデータがあります。我が子(ペット)を褒めそやす人を、内心冷ややかに見るペット嫌いさんが10人のうち3人、あなたのすぐ隣にいるかもしれないということです。

 今回注目したいのは「ペットロス」による心の傷。ペットとの関わりは人間社会の投影であり、ペットロスは寄り添うべき悲しみであると解く専門家の一説をご紹介します。(心理学から読み解ペットロス 獣医師吉田千史氏 JAICO 日本産業カウンセラー協会)

<はじめに>

 ペットと飼い主の距離感は、近年かなり変わってきています。かつては外飼いが当たり前だった犬も猫も室内で飼うケースが増えています。レストランやホテル・旅館でも、ペット同伴を認める施設が増えています。2017年1月には、日本航空が機内で犬と一緒に旅行できるチャーター便を運航し話題になりました。暮らす場所も旅行も外食も一緒といった生活スタイルのペットを「家族」だと思うのは当然でしょう。しかしペットの葬儀に忌引休暇が適用されるわけもなく、飼い主の心理的ケアに対して社会的な態制が整っているわけでもありません。家族を失ったのに普段と同じように働き、それを口にすることさえはばかられるといった状況です。

<人間社会の投影としてのペット>

 人間とペットの関係の探求は、日本人の心理構造や社会構造の解明にもつながると思っています。どうして人はペットを飼うのか。多くの人がペットを飼うという行為はイギリスで近代市民社会の形成から始まりますが、日本では戦後の経済成長期にペットブームがあり飼う人が増えました。背景には経済的な余裕が出てきたことに加え、小家族化やシングルの増加も関係があるでしょう。未婚の方、離婚した方、伴侶が亡くなった方などがよく飼われていますが、傾向としてはロスが重くなりやすい。ペットとの関係はこうした社会の投影にもなっています。ペットロスは私たち人間の社会の問題でもあるのです。

<『ペット』ではない>

 ペットロスを理解するために、ペットと人の愛着について知る必要があります。

 まず一般の人は「ペット」だと思っていますが、飼い主にとってはただの「ペット」ではありません。飼い主にとっては、もっとも大切な愛着対象であり、人よりも深い関係であることも珍しくありません。東日本大震災の時にも、行方がわからなくなった自分のペットを探している人に対して「ペットよりも人のほうが先だろう」という声がありましたが、飼い主にとってはそうではない。あまり親しくない人よりも自分の「うちの子」の行方がわからないほうが悲しいのです。何年も一緒に暮らして深い絆があるペットを亡くす悲しみは深い。「ペットを亡くした」のではなく「一番大切な存在を亡くした」と見てかかってほしいのです。「どうしてそんなに悲しいんですか?」「次を飼えばいいじゃないですか?」純粋にペットを失った悲しみに加えて、このような言葉をかけられることで、周囲の無理解という二次的被害をうけることも。

<ペットとの母子関係>

 「うちの子」というぐらいですから、飼い主の養育願望が満たされ、母親としての喜びを得ているという側面があります。すなわち子どもが先に死んでしまうことを考えれば、ペットが亡くなった時の悲しみも想像がつくのではないでしょうか。一方でペットは私たちを子供に戻してくれる側面もあります。表面的には「うちの子」ですが、意識の奥ではペットに対して母性的な情愛を求めている部分があります。実際に心の支えや癒しの対象にもなっていて、それは母が子どもにしてくれる母性です。世界各地に「動物は人間の母である」という神話がありますが、母である動物という意識が奥の方にあることも、ペットロスの理解では必要です。ペットロスから立ち直るには、時間だけでなく気づきが必要。「自分はこの子に対してこう思っていたんだ」「この子はお母さんの代理のような存在だったのかもしれない」といったようなことに本人が気づくことです。カウンセラーなや周囲の人たちが、本人が気づくような投げかけをすることが大切だと考えます。