前向きの人生観 ~「『人生二毛作』のすすめ」 外山滋比古氏の逝去を悼み
若い世代を中心に40年近く読み継がれている「思考の整理学」の著者として知られる英文学者で、お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古氏が先月30日、96歳で亡くなりました。外山氏は90歳を過ぎても精力的に執筆活動を続け、昭和58年に刊行した「思考の整理学」は今も大学生協の書籍ランキングに名を連ね、累計の販売部数がおよそ250万部のロングセラーとなっています。また「『人生二毛作』のすすめ」は、定年後の人生を意気軒昂(いきけんこう)に過ごすための生き方の極意に触れ、いつ読んでもハッとさせられます。
賞味期限切れの友情は、捨てるか買い換える
中国の思想家、荘子は「君子の交わり淡きこと水のごとし」という名言を残しました。しかし、人はとかく「簡単相照らす仲」に心情的にひかれていきます。ことに競争意識と仲間意識が交錯する組織社会では、気の許しあえる仲間同士、腹蔵なく話あえる仲を求めたがります。ただ、かりに濃い関係を切り結ぶことができたとしても、続くのはあくまで組織にいる間で、ひとたび組織を去れば、関係そのものが途絶してしまいます。ならば、かつての学友と旧交を温めて…と考えても、疎遠が続いてかれこれ何十年となれば、肝胆相照らす仲など望むべくもありません。
かつて高齢者の集まる講演によばれたときに、こんなことを言いました。「若いときの友人関係は、もう賞味期限が切れています。賞味期限の切れたものは、捨てるか、買い換えるかのどちらかです」
乱暴な言い方ですが、かつての関係に執着しない、新しい友達をつくることです。縁もゆかりもない、職業も経歴も考え方も違う。そういう人とのおしゃべりが実に楽しいのです。新たな発見です。新たな友をつくるなら、やはり同業者は避けたほうが賢明です。年代もバラエティに富んでいた方が楽しい。自分が年をとればとるほど、必然的にまわりの世代は若くなりますが、そういう若い世代の話は新鮮で、自分もつられて若返ります。
議論に誘発されて、頭脳が刺激される効果も見逃せません。ビジネス話から世間話、選挙の話…めまぐるしく話題が変わるのはそれだけ脳が刺激を受けている証拠です。第二の人生は長いのです。60歳をすぎてからでも、70歳をすぎてからでも遅くはありません。