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アップアップ読解力5「ガチ」と「雅致(がち)」

アップアップ読解力5「ガチ」と「雅致(がち)」

 「ガチで怒る」「ガチで美味しい!」など、バラエティ番組や若い人たちが使うのを聞いたことがあると思います。それに対して「雅致(がち)」はどうでしょうか。普通に生活しているとあまり聞かない言葉かもしれませんが、「雅致」は侘び寂びを感じさせる大人の言葉です。当然、前者の「ガチ」とは、まったく意味が異なります。

 今回は二つの「ガチ」についてまとめてみます。

1、「ガチ」と「マジ」

 「ガチで勝負!」といえば、「本気で勝負」「真っ向勝負」という意味です。小手先ではない本気のぶつかり合いをいい「ガチンコ」を略した言葉といわれます。
「本気で」「本当に」「非常に」などの意味の若者言葉です。

 よく似た若者言葉に「マジ」=「真面目」「本当」がありますが、「ガチ」のほうが新しく新鮮な?イメージがあるようです。

「マジ」は、若者だけでなく年齢を問わず一般的に使われることが多いのに対し、「ガチ」は主に若者。それも女性よりも男性が使うことが多いとされています。

「マジで?」(本当に?)と言うことはあっても、「ガチで?」ということは少ないとされています。「マジ」の方が、汎用性が高いともいえるのかもしれません。

2、「雅致(がち)」がある?侘び寂びを感じることば

 一方、「雅致」はひとことで言えば「風流」「趣」という意味に近いものです。

「雅」という漢字は訓読みで「みやび」。「みやび」は「上品なこと、都会的で洗練された」という意味です。

 「雅」という漢字の左側「牙(きば)」は、尖って目立つもの。たとえば、ゾウの牙は「象牙」といって、高価で貴重なものです。他のものとは比べることができないほどの美しさが漂うもの。他とは違って浮き出ているものが「牙」。

 「雅」の右側は「隹(ふるとり)」。「隹」は、もともと雀のような小さなものを意味していました。つまり「雅」は、小さくても他にはない美しさを秘めたものを表現する言葉です。

 さて、そこで「雅致」ですが、「雅」とはやや違います。「雅」に「「一致する」という意味の「致」がついています。
 これは、何かと一緒になったときに、お互いの良さが引き立て合ってさらに良いものになるという意味があります。

 美食家として知られた北大路魯山人(きたおおじろさんじん)は、料理の味はもちろん、料理を盛り付ける器や、その料理をいただくときに掛ける絵や書などにも精通していました。

 素材の味を引き出す料理と、ふさわしい器、場所、しつらえなど、すべてが融合して、おたがいが高め合うというひとときを想像してみてください。

「きゅうりの緑を一層あざやかに見せる器」「料理をより深く味わう静けさ」など、すべてのものが合わさって、それぞれが高め合ってより風雅な趣のあるものに出会ったときに「雅致がある」と表現するのです。

 目立つものばかりを並べると、互いが主張しあいかえって良さが半減してしまいます。「侘び寂び」といわれるような簡素な中に「雅致があるもの」を見出す。まさに大人の感性がなくては使えない言葉、それが「雅致」です。

 若者言葉の「ガチ」と、大人の嗜み語ともいえる「雅致」。読みは同じでも、その世界観は正反対と言っても良い言葉です。