F&Aレポート

フランス人がときめいた日本の美術館 2

フランス人がときめいた日本の美術館 2

 今日本は、たいていどこに行っても外国人観光客を目にします。海外の人からみれば興味深いジャポニズム。とりわけ日本が誇る、日本美術はどのように映るのでしょうか。

 前回に続き、日本美術をこよなく愛するフランス人美術史家、ソフィー・リチャード氏による美術館のガイドブック「フランス人がときめいた日本の美術館」(集英社インターナショナル ソフィー・リチャード著 山本やよい訳)には、日本画、屏風、絵巻物、掛軸、彫刻などについて独特の視点で観察、分析されています。海外の視点を知ることは、日本人として日本文化を見直すことや、日本の魅力を再発見することに通じます。今回は、日本美術と茶道具について抜粋してご紹介します。

1、日本美術について

 何百年もの歳月と何千キロもの距離で隔てられているため、海外では日本美術を「理解不能で道なるもの」というイメージで捉えがちです。

 文字と同じく、伝統的な絵画や巻物も右から左へ見ていくかたちをとっています。美術館の展示もたいていこのパターンなので、来館者は時計回りと逆の方向に進むことになります。

 伝統的な日本家屋や一部の美術館で美術品を飾る場合、大切にしなくてはならない要素が二つあります。まず季節感を出すこと、そして、期間を限定すること、日本では昔から季節感が重視されてきました。

 四季を大切にするという習慣から、コレクターは今が一年のどの時季かを考えた上で伝統にのっとって美術品を飾り、美術館では季節に合わせて展示替えを行います。

 期間限定の展示というのが、何世紀にもわたってふつうのことだったのです。個人宅の掛物なども一年中壁にかけっぱなしにしておくのではなく、行事に合わせ、あるいは、客に合わせて選び、床の間と呼ばれる奥まった一角にかけることになっています。

 日本古来の宗教である神道はアニミズム(無生物も霊魂を持っているという考え方)を土台とし、さまざまな儀式や慣習や信仰心が多面的な宗教を発展させてきました。古代の人々は山にも、岩にも、川にも、森にも精霊の姿を見ていました。そのため、宗教儀式や神社のためにつくられた品々には、美しい自然が繊細に表現されています。

 6世紀に入ると仏教が伝来し、仏像や複雑な表現が大量に入ってきました。時の流れの中で仏教は神道と融合し、さらに凝った表現が生まれることになりました。何世紀にもわたってさまざまな仏教宗派が誕生する中で、美術品にもその影響が広く見られるようになりました。それは絵画、書、建築、庭園など文化面にも影響を及ぼすようになりました。

2、茶道と茶道具について

 茶道は、いうなれば、幾多の芸術と人間の五感すべてから成り立つ、躍動に満ちた多元的な芸道です。16世紀に美意識の面で発展を遂げ、現在知られるような茶道が誕生しました。お茶を点てるにはさまざまな道具が必要なため、茶道の世界にはつねに、茶道具づくりという文化が息づいています。

 点前の中心となるのは茶碗、五感のすべてでそのよさを味わえるようにつくられています。手触りと重みが大切な要素。点てられたお茶の泡だった鮮やかな緑色は、茶碗の釉薬とみごとなコントラストをなしています。

 茶道具には、竹でつくった茶杓、花入、棗、釜、漆塗りの盆などがあり、何世紀にもわたってコレクションの対象となってきました。名高い茶人が愛用してきた道具を目にしても初心者には価値がよくわからないかもしれません。けれども道具を鑑賞する際には、そのことがもっとも重要な要素になります。茶道に造詣の深い人々には独特の鑑賞法があり、すばらしい来歴をもつ道具には重厚なオーラが感じられるのです。そのため来歴が美に劣らず重視されています。

 茶道文化の根底には、簡素なもの、不完全なものに価値を見出す「侘び」という美意識があります。茶道は教養ある嗜みとして、現代の日本においても人気があります。多くの人が習い、稽古を重ねているこの文化はまた、日本という国を世界に知ってもらうための役割の一端を担っています。