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長い休暇に読みたい古典 枕草子

特集 長い休暇に読みたい古典 枕草子

 今から1000年ほど前、平安時代に清少納言という才気あふれる女性がいた。清少納言は中宮(天皇の后の最高位)である定子(ていし)という人に、20代から30代半ばにかけての7年間仕えた。定子の周りには清少納言のような優れた女性たちが女房(侍女)として集められていた。定子は清少納言よりも10歳ほど年下で教養深かった。
 定子の後宮(住まい)には、その洗練された空気に憧れた青年貴族たちが集まり、サロンとなっていった。女房の生活は、華やかなサロンの一員として文化を作り上げることだった。それらの日々の中で、サロンに集まる人々と、清少納言の感性を書き綴ったのが「枕草紙」である。
 貴族が雅な文化をつくった平安時代、誉れ高い女性と青年貴族によって生まれたサロン。そこで交わされた会話や、世の中を見つめる目には、当時の「大人のエッセンス」が凝縮されていたに違いない。ビジネス書でもなく、小説でもない、一人の女性が綴ったありのままの随筆(エッセー)は錆びない日本の感性である。どうか触れてみていただきたい。限りなく不透明な時代を切り拓く経営者こそ。(角川書店「枕草子」 現代語訳をさらに超訳)

1.チョームカツク!にくきもの(第二十五段)
 たいしたこともないくだらない人が、にやにやしながらさかんに喋っていること。火鉢やいろりなどに手のひらをひっくりかえし、しわを延ばしたりしながらあぶっている者。年寄りくさい人にかぎって、火鉢のふちに足までのせて、しゃべりながらこすりつけたりする。そんな無作法な者は、人の家にやってくると、座ろうとするところを、まず扇であおぎちらしてごみを払いのけ、なかなか座る場所が決まらずにふらふらして、あげくに着物を下に巻き込んで座ったりするにきまっている。こんなことをするのは、下々の者かと思っていたが、そこそこちゃんとした身分の人がやったことなのである。
 また、酒を飲んでわめき、口の中をせせり、髭があれば髭をなで、杯を人に押し付け「もう一杯飲め」などと言う様子は本当に癪にさわる。そんなことをれっきとした身分の人がなさるのを見ると、まったく幻滅である。
 なんでもかんでも人のことをうらやましがり、自分の身の上をこぼし、人の噂話が大好きで、ほんのつまらないことでも知りたがり、聴きたがり、話してやらないと文句を言ったりする。またほんのちょっと聞きかじっただけのことを、もともと知っていたようにとくとくと人に話すのも、本当に腹立たしい。

2.バツの悪いもの はしたなきもの(第一二三段)
 体裁が悪いもの。他の人を呼んだのに、自分かと思って出てしまったとき。物などくれようとする時だったりすると、なおさら。なにげなく誰かの悪口を言っているときに、幼い子供がそれを聞いていて、当人がいる前で言い出したとき。かわいそうな話などを、人が言い出してちょっと泣いたりする時、なるほどあわれだとは思いながらも、涙がいっこうに出てこないのは本当にバツが悪い。泣き顔をつくり、悲しそうな表情をするが、どうにもならない。そのくせ、素晴らしいことを見聞きするとすぐに、あとからあとから涙がでてくる。

3.普段と違って格別に聞こえるもの(第一一一段)
 いつもより特別に聞こえるもの。正月元旦の牛車の音。同じく、元旦の鶏の声。明け方の咳払い。……楽器の音色はいうまでもない。

4.病だってすてきに(第一八三段)
 病気は、胸の病。物の怪に取りつかれたの。脚気。どこが悪いということもなく、ものが食べられない気分。
 十八、九歳ぐらいで、髪がたいそう見事で足元まであり、その毛先がふさふさしている。そしてとてもふくよかで、抜けるように色が白く、愛嬌のある顔つきで、美人だと見える女性が、歯がひどく痛むので、額髪もぐっしょりと泣き濡らし、それが乱れかかるのもかまわず、顔を赤くして痛むところを押さえて座っているのも、なんともいいものだ。

5.遠くて近いもの(第一六二段)
 遠くて近いもの。極楽。舟の旅。男女の仲。

6.大きい方がいいもの(第二一九段)
 大きい方が良いもの。家。弁当袋。法師。くだもの。牛。松の木。すずりの墨。男の目の細いのは女性的だ。だからといって、金の椀のようなのも恐ろしい。火鉢。ホオズキ。ヤマブキの花。桜の花びら。
※餌袋(弁当袋)は、狩りの時に鷹の餌を入れる竹で編んだ籠。弁当入れにも使った。

7.ありがたきもの めったにないもの(第七二段)
 めったにないもの。舅にほめられる婿。姑にほめられる嫁。毛がよく抜ける銀の毛抜き。主人の悪口を言わない使用人。全然欠点のない人。顔立ち、心、ふるまいもすぐれていて、ほんの少しの非難も受けない人。同じ仕事場で働いている人で、互いに礼をつくし、少しも油断なく気を遣い合っている人が、最後まで本当のところを見せないままというのもめったにない。
 物語や和歌集など書き写すとき、元の本に墨をつけないこと。上等な本などはとても気をつけて写すのだけど、必ずといっていいほど汚してしまうようだ。男と女とはいうまい。女同士でも関係が深くて親しくしている人で、最後まで仲が良いということはめったにない。

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