F&Aレポート

アップアップ読解力4 「識字率が高い」と「語彙力が高い」のちがい

アップアップ読解力4 「識字率が高い」と「語彙力が高い」のちがい

 日本は世界的にみても「識字率」が高いと言われていますが、「識字率が高い」=「語彙力が高い」ではないのだそうです。「語彙力」(山口謠司著 ワニブックス)によると、日本では平安時代から明治時代まで「往来物(おうらいもの)」と呼ばれる文章の雛形(教科書)があっため、欧米に比べて日本は驚くほど識字率が高くなった一方で、型にはまった文章、語彙は身につけることができても、型から外れたものはわからないという状況になってしまったということです。

 「往来物」については、書簡(手紙や書状)の書き方を雛形として語彙を学んでいくものです。「商売往来」「十二月往来」「百姓往来」「田舎往来」「問屋往来」など数百種類ものものが出版され、それぞれの職業に必要な例文が載っていて、それを真似していれば間違いないというものでした。

士農工商時代も現代も変わらない

 士農工商という身分によって固められた制度のもとでは、制度を乗り越えて異分野の語彙を学ぶということが難しかったのですが、この状況は現在でも変わらないといいます。

 一度ある職業について生活が落ち着いてしまうと、地位を守ることに終始して新しいことを学ぶことも少なくなります。

 しかし、今は職業も働き方も自由に選ぶことができ、社会も個人も変化が多く、また変化に対応しなければ生活を守れない時代です。語彙力を身につけることは、五感を働かせ、常に新しいものに対応する力を養うことにもつながります。

たとえば、ビジネスでよく使う「尽力」という言葉

 「鉄の女」という異名を持つことでも知られているマーガレット・サッチャー氏。1979年~1990年まで11年間、言葉と尽力によって1980年代のイギリスを数々の苦難から救ったといわれています。

「社会というものはありません。あるのは個人と家庭だけです」「私は、コンセンサスというものは、さほど重要ではないと思います。あれは時間の浪費の原因のようなものですから」「我々は核兵器のない世界ではなく、戦争のない世界を目指すべきです」「言って欲しいことがあれば男に頼みなさい。やって欲しいことがあれば女に頼みなさい」

「尽力」は、「灰燼(かいじん)に帰す」という言葉もある通り、燃え尽きてしまってすべてが灰になるほど、精魂を尽くすという意味です。燃やし尽くして何も残っていないということを表しています。女性で初めて保守党党首、首相という地位まで上り貢献したサッチャー氏はまさに「尽力」の人と言えるのではないでしょうか。

「斟酌(しんしゃく)する」と「忖度(そんたく)する」

 「斟酌」は「忖度」と合わせて覚えておきたい言葉です。「斟酌しない批評」「未成年者であることを斟酌して責任を問わない」…という具合に使われます。

「斟酌」と「忖度」はよく似ているのですが「相手の事情や心情を汲み取ること」、また「汲み取って手加減すること」から、「遠慮する、言動を控えめにすること」という意味で使われます。そのため、「斟酌のない批評」は、「はっきりと遠慮も手加減もなく、あからさまな批評」ということになるのです。

 漢字の語源では、「斟」も「酌」もお酒に関する言葉です。「酌」は「酌をする」という言葉の通り、本来は瓶に入ったお酒を、柄杓で汲み出すという意味です。「斟」も「斗」という長い柄のついた柄杓でお酒を注ぐという意味です。どれだけお酒を組んで注いで差し上げようかと考えて、お酒を差し出すという行為をいいます。

 苦情などの対応で、「何卒かかる事情をご斟酌いただき、あしからずご了承いただきますようお願い申し上げます」という表現は、「ご考慮を賜り」という言葉で言い換えることもできます。

 「忖度」は「相手の心を推し量る」。「斟酌」は「相手の心を推し量った上で、それに処置を施す、対応する」という行動が入っていると理解すれば良いでしょう。