F&Aレポート

日本語トレーニング (1)声に出して読む脳トレ

日本語トレーニング (1)声に出して読む脳トレ

 黙読、音読、朗読のちがいは何でしょうか。黙読は黙って読み、音読は声に出して読み、朗読は、誰かに読み聞かせるために声に出して読みます。私たちは、声に出すことで、自分自身でも内容をより正確に理解したり、誰かに伝えたりすることができます。言うまでもなく、黙読よりも声に出して読む方が、脳は多くの刺激を受けています。

 目で情報を読み取り、音声に変換し声で表現する。それを耳でキャッチして再び脳にインプットする。さらに、よどみなく読むためには、目は『読んでいる文字よりも、少し先を追っています』。

 これはAI(人工知能)でいえば、かなり優れた高度なワザなのだそうです。これが、「音読は脳のトレーニング」と言われる所以です。さらに、磨かれた文章を読むことで、文章力が身に付き語彙も増えます。

 「声に出して読む日本語」で有名な齋藤孝氏は、「1分で脳を鍛える速読術」の中で、次の文章「ういろう売り」を紹介されています。

 「ういろう売り」は、周知のとおり歌舞伎「ういろう売り」の口上ですが、声優やアナウンサーを目指す人の滑舌訓練の教材としても有名なものです。次の手順に従って、声に出して読んでみましょう。

★ 1分で読む:時計やストップウォッチを使う
★ 普通の声で読む:大きな声で読む必要はありません
★ すらすらと読む:早口で読む必要はありません
★ 長めの息づかいで読む:ゆったりした気持ちと息で
★ 日本語らしいイントネーションで読む:意味の流れを大事にして、波に乗るように読む

■「ういろう売り」

 拙者親方(せっしゃおやかた)と申(もう)すは、お立ち会いの中(うち)に、ご存知のお方もございましょうが、お江戸を発(た)って二十里上方(にじゅうりかみがた)、相州小田原(そうしゅうおだわら)、一色町(いっしきまち)をお過ぎなされて、青物町(あおものちょう)を上(のぼ)りへお出(いで)なさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門(らんかんばしとらやとうえもん)、ただいまは剃髪(ていはつ)いたして、円斎(えんさい)と名乗(なの)りまする。

 元朝(がんちょう)より大晦日(おおつごもり)までお手に入れまするこの薬は、昔、陳(ちん)の国(くに)の唐人(とうじん)、外郎(ういろう)という人、わが朝(ちょう)へ来たり、帝(みかど)へ参内(さんだい)の折りから、この薬を深く籠(こ)め置き、用(もち)ゆる時は一粒(いちりゅう)ずつ、冠(かんむり)の隙間(すきま)より取り出す。よってその名を帝(みかど)より「透頂香(とうちんこう)」と賜(たまわ)る。即(すなわ)ち文字(もんじ)には、「頂(いただ)き、透(す)く、香(にお)い」と書いて、「とうちんこう」と申す。

 ただいまはこの薬、ことのほか世上(せじょう)にひろまり、ほうぼうに似看板(にせかんばん)を出(いだ)だし、いや小田原(おだわら)の、灰(はいだわら)俵の、さん俵(だわら)の、炭俵(すみだわら)のと、いろいろに申(もう)せども、ひらがなを以(もっ)て「ういろう」と記(しる)せしは、親方円斎(おやかたえんさい)ばかり。もしやお立ち会いの中(うち)に、熱海(あたみ)や塔ノ沢(とうのさわ)へ湯治(とうじ)においでなさるるか、または伊勢参宮(いせさんぐう)の折(お)りからは、必ず門(かど)ちがいなされまするな、お上(のぼ)りならば右の方(かた)、お下(くだ)りなれば左側(ひだりがわ)、八方(はっぽう)が八つ棟(やつむね)、おもてが三つ棟玉堂造(みつむねぎょくどう)り、破風(はふ)には菊に桐のとうの御紋(ごもん)を御赦免(ごしゃめん)あって、系図正(けいずただ)しき薬でござる。

<練習のポイント>