ワーク・シフト 企業経営者への手紙 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>
■ 2025年、私たちはどんな風に働いているだろうか。「漫然と迎える未来」には孤独で貧困な人生が待ち受け、「主体的に築く未来」には自由で創造的な人生がある。リンダ・グラットン著「ワーク・シフト」には、前者の暗い現実には、<3分刻みの世界がやってくる><人とのつながりが断ち切られる><新しい貧困層が生まれる>とあり、後者の明るい日々には、<コ・クリエーション><積極的に社会と関わる><ミニ起業家が活躍する>とあり、それぞれの未来が描かれている。
■ テクノロジーの変化、グローバル化の進展、人口構成の変化と長寿化、社会の変化、エネルギー・環境問題の深刻化により、これまでの「働き方の常識」は世界的な規模で急激にしかも、劇的に変化していきつつある。著者はこれを「革命」といい、職業生活に関する常識を「シフト」させれば、好ましい未来を迎えられる確率を高めることができるという。著書の一節である「経営者への手紙」をご紹介したい。(「ワーク・シフト」リンダ・グラットン著 プレジデント社)
1.企業経営者への手紙
この先20年間は、世界中の企業リーダーにとってことのほか厳しい時代になります。仕事に関する常識の多くは根本から揺らぎ、その多くは捨てられるでしょう。リーダーに対する人々の信頼感はかつてなく落ち込んでおり、この傾向はさらに拍車がかかると予想されます。
才能のある人材はグローバルな人材市場に加わり、自分たちの要求をきっぱり主張しはじめます。情報の透明性が高まる結果、リーダーの行動はこれまで以上に厳しい監視の目にさらされます。一方、仕事の世界でチームづくり役割を担いはじめている世代は、職場でどのようにマネジメントされたいのか、どのような仕事にやる気をかき立てられるのかという点に関して、それ以前の世代とは異なるニーズを持っています。こうした数々の要因が重なって、企業のリーダーにのしかかる重圧は強まる一方です。
これまでより多様で、バーチャルで、グローバルなチームをまとめあげるためには、以前より高度な技能が必要とされます。そういう資質をもった人材を選抜し、育成することは簡単ではありません。20年後のリーダーの役割は、フォロワーのやる気をかき立て、きわめて多様な利害関係者をマネジメントし、環境と社会が直面している課題を解決するために行動することです。未来の世界を形づくる新しいトレンドを追い風にし、強靭なビジネスを築けるかどうかは、次の5つの要因に大きく左右されます。
強靭なビジネスを築く5つの要因
第一に、グローバル化がますます進展するにつれて、新しい史上が広がる半面、顧客と人材の争奪戦も激化します。消費者と優れた働き手は、なんらかの面で革新的な商品やサービスのもとに、そして、それを提供している企業のもとに集まります。世界中のいたるところでイノベーションが生まれるようになります。そこで、オープンイノベーションを実施し、一般社員や顧客のアイデアを商品・サービス開発に生かす必要性が高まります。
第二に、テクノロジーの発展とグローバル化の影響を受けて硬直化したピラミッド型の組織構造が変質し、もっと流動的な形態が急速に広がるでしょう。社内で活動が完結するのではなく、合弁事業やパートナー関係、ミニ起業家たちとの取引など、コラボレーション重視のビジネスのエコシステムを築くことも当たり前になります。優秀な人材の中には、企業などに雇われて働くのではなく、自分のビジネスを築きたいと考える人が多くなります。そういう人材の才能を活用することが企業にとってますます重要になるでしょう。
第三に、優秀な人材は、大人と大人の関係を望むようになります。どこで、どういう働きをしたいかを自分で決めたいと主張しはじめるのです。一方、多くの人が100歳以上生きるようになれば、60歳代で仕事を続けることが珍しくなくなります。60歳代や70歳代の人材に対する固定観念を改めることが企業に求められます。企業は人事制度を新しい時代にふさわしいものに転換し、柔軟な勤務形態、個人に合わせた研修、チーム単位の職務設計などを取り入れていく必要があります。
第四に、社員のやる気を高める上で給料が果たす役割も微妙に変わります。若い世代を対象に実施された調査によれば、この世代はそれまでの世代に比べて、やりがいのある仕事や自分を成長させられる仕事に就くことを重んじています。仕事と私生活のバランスの取り方を主体的に決めることを望む人も増えるでしょう。仕事に集中的に打ち込む時期、専門技能や知識の習得に力を注ぐ時期、ボランティア活動に携わったり、リフレッシュしたりする時期をモザイクのように織り交ぜつつ、60歳代以降まで働き続けたいと考えるも人も多くなります。優秀な人材を引きつけようと思えば、こうした多様な働き方のシーズにこたえられる体制を整えることが不可欠になってきます。
第五に、これまで多くの企業は、競争を成功の土台と位置づける発想に基づいて築かれてきました。しかし今後は、さまざまなビジネスのエコシステムの中で協力的なパートナー関係を築く能力が競争力の源泉になるケースが増えるでしょう。それに伴い、協力と信頼と受容を促進する企業文化を築く事が極めて重要になります。そういう企業文化を築く最大の原動力となるのは。あなたのチームが実際に協力的に振る舞う姿を周囲に見せ、さらには、経営者であるあなた自身が、そのお手本を示すことです。透明性が高まる未来の世界で社員の意識を高めるために重要なのは、なんといっても経営者の行動なのです。