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誰もが一目置く。日本一の靴磨き師 井上源太郎氏 これぞプロ。その仕事ぶりに学びたい!

誰もが一目置く。日本一の靴磨き師 井上源太郎氏 これぞプロ。その仕事ぶりに学びたい!

■ 東京のホテルオークラの地下に伝説の靴磨き師 井上源太郎、通称「源さん」がいる。10年近く前、このレポートでも紹介したしたことのある人物だが、ネット全盛時代になり、今や彼の存在は、ネットでも伺い知ることができる。■日本一の靴磨き師は、必ず客を唸らせる。小泉もと首相も、マイケル・ジャクソンも、オードリー・ヘップバーンもソフィア・ローレンも彼の仕事ぶりに感嘆のため息をもらしたという。■たかが靴磨き、されど靴磨き。その仕事の奥行きは深い。基本1足800円。しかし、彼の仕事場には、靴磨き代よりも高い送料を払って、全国から時には海外からも靴が届く。作業場には常時、段ボールが高く積み上げられている。前回の「靴磨き=心磨き」に続き、靴磨きの源さんを本レポートで再度、ご紹介したい。(「サービスの達人たち」野地秩嘉著 新潮文庫

1.仕事を極めるのはまず「好き」になることから
 シューシャインの「源さん」は、昭和47年から現在まで実に多彩な人々の靴を磨いてきた。場所がら政治家の顧客が多い。佐藤栄作、藤山愛一郎といった往年の大ものたちから、現在は石原慎太郎、小泉純一郎など。かつて来日したオードリー・ヘップバーン、ソフィア・ローレンは、源さんに靴を磨いてもらった際、「どう磨いたらこんなきれいな艶がでるのか」と真剣に聞いてきた。マイケル・ジャクソンはホテルの部屋に源さんを呼んで、ただただ「beautiful!」と、感動を露にしたという。
 十六文という大きな足で有名だったプロレスラーのジャイアント馬場も20年以上にわたるお得意様だった。彼は町を歩くと”あれが十六文キックの足か…”と、いつも足元を見られるので靴だけは贅沢をしていたというが、「源さんは、商売でやっているという風じゃない。靴が好きで好きでしょうがないという感じが伝わってくるんだよなぁ」と、生前語っている。

2.源さんの仕事場が語る”ワザの冴え”
 源さんの仕事場はいたって地味である。そっと扉を開けると、プーンと靴墨の匂いがする、わずか三畳ほどの仕事場。仕事場というよりも作業場という方がぴったり。客が腰掛ける古びた椅子と仕事着を入れるスチールロッカー。そして部屋の隅には宅配便の段ボール箱が天井まで積まれている。東京近郊だけでなく九州にも北海道にも香港にも源さんの仕事の虜になった人がいるのだ。彼らは手間賃よりもよほど高い送料を払って源さんに靴を託す。必然的に源さんは、朝の9時から夜の6時まで昼食をかき込む以外は、全く休みなしに仕事に没頭せざるをえない。客待ちに営業時間を費やす、街頭の靴磨きとはちがう。

3.35万円もする靴を自腹で購入。研究費用は惜しまない
 源さんは銀座や赤坂の靴屋を見てまわり、新しいブランド品が輸入されていようものなら1足10万円以上のものでも研究のために買い込んでしまう。必ず自分で履いて革の耐久性や性質をじっくり調べる。クリームやワックスも常時、数十種類は用意し日本製、アメリカ製、フランス製、イギリス王室御用達製など、色や性質の異なるクリームを皮革の種類によって使い分ける。市販のクリームでぴったりのものがなければ、自分で調合する。靴だけでなく靴用品についても熟知しているのだ。

4.靴を磨くときはお客さんの姿をイメージしながら仕上げる
 源さんの靴磨きは通常のそれの倍以上の時間をかける。源さんの靴磨きは、最低でも15分はかかり、磨き方には独特のスタイルがある。ブラシを使わず、クリームとワックスを区別して塗るのが特徴。ブラシを使わないのは靴の表面の革を傷めてしまうため。泥もほこりも布で軽く払うようにして、クリームやワックスはティッシュペーパーを使う。
 クリームは艶を出すというより、革を保護するためのものだから、女性が肌に基礎化粧品をすりこむようにのばしていく。その後、数滴の水を垂らし、光沢を出す為のワックスを塗る。それからやっと磨きに入る。右手の人差し指と中指に布をぐるぐる巻き付けて、靴に接触するぐらい顔を近づけ、二本指で表面をなでてゆく。決して強い力でこするようなことはしない。
 「靴を見ると、その人の性格から健康状態までわかる」「靴を磨くときは、お客さんの姿をイメージしながら仕上げる。その人の姿がイメージできなくなったら仕事はしたくない。それが人と人の付き合いってもんでしょう」と源さんはいう。

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