F&Aレポート

2026夏旅のトレンドと江戸時代の「伊勢参り」〜観光の原点

 2026年夏の旅行は「1泊2日」が最も多く、近場、短期間でも満足度の高い旅が支持されているそうです。また、「家族と過ごす」「地域の食を楽しむ」「体験を重視する」といった目的が上位を占め、モノよりもコトに価値を見出す傾向が一層高まっているといいます。

 この傾向は、物価高や宿泊費の上昇、円安の影響を受けて、旅にかける予算は低めに抑えられているものの、全体の旅行者数は昨年よりも増加しているということです。いつの時代も旅行は人々の楽しみであり、体験と情報の宝庫です。

 今回は、江戸時代の旅「伊勢参り」。当時、「一生に一度は行きたい」と言われ、爆発的なブームになった「伊勢参り」と、無一文でも旅ができる?「おかげ参り」をご紹介します。

日本最大の交流イベントだった「一生に一度の夢 伊勢参り」

 江戸時代、多くの人が一生に一度の夢として目指したのが「伊勢参り」です。

 当時は、車も新幹線もありません。何日もかけて歩き、宿場町に泊まりながら伊勢神宮を目指しました。江戸から伊勢まで約500km。往復1,000km近くあります。

 それでも人々は旅に出ます。もちろん、信仰が目的(お札をいただくこと)ではありますが、それだけではありません。

 各地の名物料理を味わい、温泉に入り、人と出会い、土産を買い見聞を広げる。その情報を郷里に持って帰り伝え広めるという目的がありました。伊勢参りは、日本最大の交流イベントだったといえます。

 宿場町は栄え、街道沿いには茶屋や旅籠が並びました。地域の名産が売れ、職人の仕事が生まれ、多くの経済効果を生み出しました。旅人は、地域経済を動かす存在でした。それは、現代の観光政策「交流人口の拡大」でも共通しているようにみえます。

無一文でも旅ができる?「おかげ参り」

 興味深いのは「おかげ参り」です。江戸時代には約60年ごとに全国規模で、伊勢参りが大流行しました。子どもからお年寄りまで、多くの人が一斉に伊勢を目指しました。

 お金を持たずとも、通りがかりの人が食事を振る舞い、宿を提供し、お金を渡してくれるのです。

 当時は、伊勢参りをする人たちに施しを与えることでは、自分自身にもご加護があることと信じられていました。見て見ぬ振りをすると災いが降りかかるのだと。

「おかげさま」という言葉の由来はここにあるという説もあります。助け合いの精神と文化が広がり、根付いたといっていいでしょう。

 伊勢参りは「目的地」だけに価値があったわけではありません。旅の過程そのものに意味がありました。

 失敗、発見、学び、出会い、新たな情報や文化に触れること。それらすべてが人生を豊かにし、旅先にとっても郷里にとってもかけがえのない財産になるのでした。

「ぬけ」が評価され、地域に恩恵をもたらす

 伊勢参りによる人生の喜びは、個人のものだけには留まりません。そもそも「伊勢参り」は、地域(村)で選抜された人が行くのが本筋でした。

 村の代表に選ばれし人は、村で集めた軍資金を預かり、村人の数だけお札をもらって帰ってくるのが使命でした。さらに、情報を持って帰ること。旅で得た見聞を村に広め、共有するという使命がありました。そのため、帰りの旅路は、土産やらお札やらで、相当な荷物を抱えての行脚になるのでした。

 また当時、奉公人が使用人にだまって伊勢参りに出かける。妻が夫に内緒で突然出かけるという「ぬけ参り」というものもありました。何日も音信不通で家をあけるにも関わらず、伊勢参りを無事に済ませてお札を渡すと、咎めるどころか、「よくやった」と褒められたというので驚きです。

  旅の目的と価値。観光の原点は、すでに江戸時代にあったのかもしれません。

  ゴールまでの過程に価値があり、それを楽しむ。その極意は、旅に限らず、ビジネスにも人生にも共通しているようにみえます。この夏、どうぞ良い旅を!