先日、私が主催するスクールで「何歳まで働くか?」というテーマで、パネルディスカッションをしました。その中で「定年まで働き続けたい。転職をする気はない」(20代女性、金融機関勤務)という意見がありました。
最近は、新卒入社したタイミングで転職サイトに登録し、良い条件があれば簡単に転職するという話も珍しくないので、「転職しない」という意見は新鮮でした。
理由を尋ねたところ、「今の職場の条件や環境にほぼ満足している」ということと、「転職をしたところで、今以上の待遇の会社に就職する実力は(自分には)ないと思う」ということでした。この率直な意見からわかることが二つあります。
一つは、福利厚生をはじめ労働条件や人間関係も含めた働く環境を、よりよくしていくことが人材流出を防ぐということ。当然ですが、社員目線で整えていくことが重要です。
二つ目は、「今以上の待遇の会社に就職する実力はない」ということは、裏を返せば、「実力があれば転職を考える」ということにもなります。よく言われることですが、「優秀な人材ほど流出してしまう」ということに、なりかねないということです。
「人的資本経営」とは?いつから?
「人的資本経営」の概念は、18世紀にアダム・スミスが発表した「国富論」に起源があり、20世紀に入ってから確立されたと言われています。
日本では、2023年3月期から上場企業に人的資本に関する情報開示が義務化されたことを契機に、多くの経営者が重要な課題として認識するようになりました。
「人的資本経営」とは、企業が従業員(人材)を単なるコスト(費用)ではなく、「価値を生み出す資本」=「人が会社の最大の財産」として本気で経営に組み込み、その成長や活躍を経営の中心に据える考え方です。近年、日本でもますます注目度が高まっています。
なぜ今、人的資本経営? |
<国際的な潮流> |
米国のSECや世界経済フォーラムなどが、「人的資本の情報開示」を重視している |
<日本政府の推進> |
2022年に経済産業省が「人的資本可視化指針」を公表 |
<ESG投資の拡大> |
投資家が「人材戦略」に注目。人への投資は企業の成長性の指標 |
具体的な人的資本の項目(国際的なガイドラインより)
- スキルと能力
教育、研修、リスキリング(経営方針や、時代に合ったスキルの再構築、再訓練) - エンゲージメント
働きがいを高める、従業員満足度向上、エンゲージメント調査 - ダイバーシティ
男女比、障害者雇用、外国人比率など - 健康・安全
メンタルヘルス、ウェルビーイング、労災、健康経営 - 従業員の流動性
離職率、定着率など
人的資本と人的資源のちがい
- 人的資源:人=リソース(資源)として「管理」対象=管理重視の視点。
- 人的資本:人=資本として「投資」の対象=成長重視の視点。
企業の実践事例として、資生堂(女性管理職比率のKPIを明示、育成と登用をセットで強化)、日立製作所(全社員のキャリアパスを可視化し、自己成長支援)、サイボウズ(副業、週3勤務OK)などがあります。