「人的資本経営」とは、人を「コスト」ではなく「価値を生み出す資産」と捉え、従業員のスキル・経験・エンゲージメントを最大化し、企業価値を高めていく経営手法です。大企業では人的資本情報開示が進んでいますが、中小企業にとっても人材不足時代を生き抜く重要な戦略になります。今回は、中小企業での実践ポイントをご紹介します。

「人的資本経営」は、人事だけに任せられるのか?
先日、私が主催するスクールで「何歳まで働くか?」というテーマで、パネルディスカッションをしました。その中で「定年まで働き続けたい。転職をする気はない」(20代女性、金融機関勤務)という意見がありました。 最近は、新卒入社したタイミングで転職...
中小企業での実践ポイント
- 採用・定着
- カルチャーフィット採用:能力やスキルだけでなく、価値観の一致を重視
- オンボーディング強化:入社後3〜6ヶ月、教育とフォローを充実させる
- キャリアパス提示:小さな会社でも「成長できる道筋」を示す
- 教育・成長
- OJT×OFF-JTのバランス
- 資格取得支援や外部研修費用補助
- 社内勉強会、リーダー育成プログラム
- 働きがい・エンゲージメント
- 心理的安全性のある職場づくり
- 従業員の意見を取り入れる仕組み(1on1、提案制度)
- 小さな成功を称賛・見える化
- 健康・働きやすさ
- 柔軟な勤務形態(時短・在宅)
- 健康管理(検診補助、メンタルサポート)
- ワークライフバランスを意識した業務設計
中小企業ならではの強み
- 経営者の意思決定が早い→人事施策もすぐ試せる
- 従業員数が少ない→個々の特性を活かしやすい
- 地域・顧客との距離が近い→「人」の強みを活かした関係構築ができる
中小企業の実践イメージ
- 製造業
技能伝承のためベテランと若手のペア制度を導入 →離職率低下、技術の標準化 - サービス業
1on1ミーティングを月1回実施 →社員のモチベーション向上、提案数増加 - IT企業
週1回の勉強会+資格取得支援 →若手エンジニアの定着と受注案件拡大
小さく始めるなら
- 「従業員アンケート」で本音を把握する
- 月1回の1on1で個々のキャリア希望を聞く
- 社内に「学びの時間」を30分でも設ける
- 感情や成果を「見える化」する仕組みをつくる
まずはチェックリストで現状把握。経営方針・ビジョンと連動させる
- 従業員の人数・年齢構成・勤続年数を把握している
- 離職率や採用状況を数値で見える化している
- 従業員満足度や職場課題を把握するためのアンケートや面談を定期的に行っている
- 人材に期待する役割を明確にしているか
- 若手〜中堅〜ベテランそれぞれのキャリアプランを意識しているか(次回につづく)