ボストーク

湊町レター Letter From Minato-machi 2025(令和7)年6月1日 No.167

6月になりました。2025年も1年の半分近くまで経過したことになります。「あっという間」が何事もなく「あっという間」だったのか、いろいろなことがあって思い出したり考えたりすることがたくさんあって「あっという間」だったのか、さて皆さんはいかがでしょうか。何事もなかったと感じていても、振り返ってみると変わっていたということがあります。自分のこと、世の中のこと。時は移ろう、です。

その時を刻むことの大切さについて考えます。

税理士として行う仕事の中で、相続税という分野があります。法人税や個人の所得税は、1年に1回行う作業で、毎年を振り返ることとなりますが、相続税は亡くなる方の一生に一度の申告です。その方が積み上げた財産一生分を精算し税金の申告をする作業。また、遺産分割では、税金だけでなく、その方の生き様、残された家族の環境など、人として深い部分に入り込んでしまうことが多々あります(遺産分割協議自体に税理士は関わりません)。

その相続に関して、少し古い今年の2月の日経ネット版に相続人不在で国庫に入る財産が2023年度は1015億円になったという記事が出ていました。2013年度は300億円を超えた程度でしたから、10年間で3倍に増えたことになります。

国庫に入るということは、法的に相続財産を受け取れる相続人がいないケースであり、配偶者が先に亡くなり子どもも他の親族もいないとか、ずっと独身のいわゆるお一人様で相続人がいないケースが増えているということと考えられます。少子高齢化の現状から、この数は将来にわたって増えていくものと予想されます。

相続人がいれば、亡くなった後のことは相続人がやれば良い、ということで生前は何もせず相続人が遺産整理を行うというのが従来の相続の形でした。しかし、相続人がいない場合は遺産整理を担う人はいないので、自分で事前に準備する必要があります。何もしなければ国庫に入ってしまいますが、生前にお世話になった組織や個人に財産を譲りたいと思えば、遺贈のことを考えることができます。生前にお世話した法定相続人でない人が遺産を受け取れる特別縁故者という制度もありますが、自ら裁判所に申し出る必要があり、認められるケースはほとんどないそうですから、生前に行う意思表示は大変重要です。

また、生前の資産管理、老化により判断能力が衰えてくるとその管理をどのようにしておくかという問題もあります。これを支える法的な制度としては、任意後見や家族信託のようなものがあります。これらの制度はやや使い勝手が悪い面もあり、公的機関によらず親族や専門家を使って私的に管理する契約も考えられます。

時間はあっという間に経つのですから、自分なりに早いタイミングでこのようなことを考えておく必要があります。死に様とは生き様、です。