人工知能の第一人者である川村秀憲氏は、「これからの10年で起こること」として、「勉強していい大学に入り、いい会社に入っても職を失う」といいます。また。今後AIに代替される仕事は「ホワイトカラー」であると。それは「お金になるから」。つまり、ホワイトカラーと呼ばれてきた人たちがしてきた仕事を、AIで安く、正確に代替していくビジネスには、世界的に大きなニーズがある、ということです。
ChatGPTが急激に話題になったのは、一般ユーザーにとって新鮮でわかりやすい形を示したこと以上に、実際に企業が自社のビジネス効率化に応用できるものだったからです。一方、「体を使う労働」もAIの発展と同時に、ロボットの発展も進んでいます。
テスラを率いるイーロン・マスク氏は、2022年に人型ロボットのプロトタイプを発表し、将来的に2万ドル(約300万円)程度で量産することを目指すと表明しています。2万ドルとランニングコストだけで10年使える汎用性の高いロボットを提供できるなら、毎年その何倍も人件費を出して人を雇い入れるよりも効率ははるかによくなります。安全対策や労働環境に割かなければならないコストも削減できます。
とはいえ、私たちは「AI失業」を恐れるのではなく、「本当にやりたいこと」が問われているのだといいます。数回にわたり「10年後のハローワーク(川村秀憲著)」をご紹介します。
働かなくてもいいのなら、今の仕事をやめますか?
たとえば、宝くじが当たり、5億円を手に入れたとしましょう。5億円を手にしたら、今の仕事をやめるでしょうか。
お金が十分にあるならばしたくないと考える仕事は、「不本意な部分があっても、生活のためには仕方なくしている仕事」。それは「人から言われてやる仕事」という場合が多いのではないでしょうか。
一方、5億円あっても続けたい仕事は、おそらく「心からしたい仕事」であると同時に、「自分で何をするか決める仕事」なのではないでしょうか。
「したくない仕事」はAIに代替される可能性が高い。同時に、「したくない仕事」を誰もしなくて済む世界、つまり、面倒なことはAIに任せられる世界が来るかもしれません。
世界中で議論も始まっていますが、近い将来、年齢や性別、所得などに関係なく、すべての国民に一律の金額を一生支給する基本生活保障制度「ベーシックインカム」が成立する状況がAIによって作り出せるとしたら、生活のために仕事をする必要はなくなります。
働かなくとも生活に困らないのであれば、無理して仕事などせずに、好きなことをしながら暮らすことも可能です。そして、そんな条件の下でも働き続けることとは、事実上、好きなことを突き詰めている状態、要するに遊んでいることとほとんど等しいのではないでしょうか。
私自身、この質問を自問自答するなら、当たった宝くじが5億円でも10億円でも、今の研究生活はやめないでしょう。むしろ、お金のために無理をしなくていいので、仕事がしやすくなると思います。裏を返せば、お金のために働くのではなく、「その仕事をしたくてたまらないからする」ということになります。
私はここにこそ、AI時代の仕事、職業選択の大きなヒントがあると考えています。なぜなら、自分が何をしたいかは、決してAIには決められないからです。
10年後に広がる「個性こそが価値になる」時代
これまで「いい大学」に進学して、「いい会社」に入社して、やがてプロモートされながら肩書と高い報酬を得ていく。というのが社会人の成功パターンであったと思います。
しかし、AIについて知れば知るほど、今までの常識にしたがって生きていくことの危うさ、むなしさを感じないわけにはいかないと思うのです。
私が訴えたいのは「AIに仕事を奪われる常識」ではありません。その先にある、「お金のために無理をして働かなくてもいい世界」「自分が何をしたいかによって、学びも仕事も選択していく世界」。そして「人と同じことをして競争するのでなく、自分の個性こそが価値になる世界」にみんなで向かっていこう、ということです。
この先AIは、ますます成長、発展していきます。しかし、AIが神様になるわけではありません。人生の岐路に立った人が、AIにその先の生きるべき道を聞いたとしましょう。AIはそれまでの学習内容に則していくつかの方法を返してくれるでしょう。質問した人自身が知らなかった情報や考え方が含まれているかもしれません。
しかし、だからといって、10年後、20年後「AIが答えた通りにした」という人が増えているとは思えません。どう生きるかは、自分で決める究極の問題だからです。(つづく)