F&Aレポート

スムーズな「仕事」と、ストレスのない「人間関係」のために 大人の「国語力」を身につける 2

「話し言葉」と「読み言葉」の乖離

 現実には「話し言葉」が理解できても、「書き言葉」が理解できないことなどザラである。移民が多いアメリカでは、昔から識字率が低く、まともに読み書きができない人が15%程度もいるとされている。しかし、この15%の人たちは普段のコミュニケーションや娯楽においては何不自由なく暮らすことができている。

 ところが、この人たちに新聞を読ませてみたら、途端に「英語ができない人」になってしまう。書かれていることの意味が理解できなくなるのである。書き物も同じで、話すことはできても文章で表現するとなるとできない。アメリカではこのような人が「知的レベルの低い人」と見なされ、収入の低い職業しか就けない状態にある。日本は識字率こそ高いが、新聞を読めて理解できる人がどれくらいいるだろうか。

 つまり、「話し言葉」と「書き言葉」は別物。大人の「国語力」とは、「読む」「書く」「聞く」「話す」の総合力なのだ。

どんなことにも自分の意見を持つ

 大学生から社会人にかけて絶対にやらなければならないこと。それは様々なことについて自分の意見を持つことである。大学でレポートを書く能力を、それなりに身につけたとしても、自分が主張すべきことがないと活かされない。そこで問題意識を持ち、どんなことに対しても自分の意見を持つことが大事になるわけである

 私のアメリカ留学時代の話だが、精神科の病棟にアラブの大富豪が入院していた。彼らは通訳を伴って入院していたが、その通訳たちの社会的地位が意外に低いことを聞いて驚いたことがある。日本人の感覚から言うと、英語を自由に操ることができるのはすごいことで、通訳という仕事にはそれなりにステータスがある。ところが、アラブの大富豪たちは、通訳というのは単により優秀な人のコミュニケーションツールに過ぎないという軽い扱いしかしていないのである。

 実は読解力やレポート作成力に優れているというだけでは、このような扱い方を受ける危険性があるのだ。これらの能力が人生を切り開く大きな力になるのは、その人がまわりに主張すべき意見を持っているからだ。それを、根拠を示しながら説得力のある言葉で伝えるからこそ、自分の考える方向にまわりを動かすことができるのである。

語彙力の強化〜背景知識がないと文章は読めない

 たとえば、新聞の社会面に書かれていることくらいなら、大人であれば人生経験の中で得た知識を使えばなんとか理解することはできる。ところが、政治面や経済面、あるいは日経新聞の記事中には難しい専門用語がたくさん出てくるので、これらの意味を知らない人は簡単には読めない。これは英単語を知らない人が英語の長文を読んでいるようなものである。これは、人の話を聞く場合も同じで、さらに、世間のあらゆる知識に触れるときに共通している。外から入ってきた知識を理解するためには、必ず背景知識が必要になる。サッカーや野球などの話にしてしても、理解するには多少たりとも自分がサッカーや野球の知識を持っていなければ難しいのである。

 理解のための背景知識や語彙を増やすには、わからない言葉が出てきたとき、すぐにその言葉を調べ、日常で使うことである

要約力を磨くための勉強法

 新聞の社説や評論文を読み、書き手が主張したい中心的な部分を選び出す。文章のパラグラフ(段落)で書き手の言いたいことだけを抜き出し、それをつなげて短い文章をつくってみるという訓練が一番いいだろう。受け売りの知識を誰かに話すようなものでもかまわない。教養番組の内容を誰かに説明するということを繰り返すだけでも立派な要約のトレーニングになる。要約は論旨の把握につながるものなので、これを行うことは読解力を培うトレーニングにもなる。(国語力をつける勉強法 和田秀樹著 東京書籍より)