今年5月、コロナが「5類感染症」と位置付けられ、パンデミックは一区切りついたといっていいでしょう。この3年間は、社会にさまざまな変化と影響を残しました。私たちの働く環境も対面からテレワークへ代わり、コミュニケーションが拡大し、そのあり方に大きな変化があったといっていいでしょう。
テレワークの影響で生まれた働き方や個人の意識の変化は、今後どうなっていくのか。また、その可能性や課題は何なのか。私たちはどのような進化が期待されているのか。産業カウンセラー、キャリア・コンサルタントの視点を交えて考えてみたいと思います。(参考:JAICO 一般社団法人 日本産業カウンセラー協会 特集「リモートワークがもたらしたもの」)
1、企業と働く人への影響と、そのギャップ
<企業側のメリット・デメリット>テレワークが企業にもたらしたメリットに、オフィス賃貸料を削減できたことがあるでしょう。またコロナ前と後で大きいのは「テレワークOK」という採用ができるようになったこと。これは大きな変化で、採用の地域的な幅が広がりました。
一方デメリットとしては、マネジメントがしにくくなったことでしょう。日本企業は現場に戦略を期待する、現場依存の傾向が強い。一般的に日本の職場は水平的なコーディネーション、つまり調整の機能が強く、その中で擬似共同体的な人間関係を築き上げ、柔軟なジョブアサイン(職務の割り当て)をするという特徴があります。そして経営と垂直的なコーディネーションが弱く、一方で人事機能がとても強い。それがテレワーク化によって、水平的なコミュニケーション不足になります。ジョブアサインが難しくなり、知識伝達が難しくなり、OJTの機能不全が起こる。職場の一体感もなくなる。こうしたことが頻出しています。
<働く側のメリット・デメリット>働く人にとっては、通勤がなくなったのは非常に大きなメリットで、時間の有効活用やストレス緩和、居住地域の選択肢が高まりました。また人間関係からのある種の解放という側面を、メリットとして享受した人も多いと思います。裏を返せばこれは、寂しさや孤独感の問題にもなります。
「テレワークを今後も続けたいか」というアンケートには「続けたい」と考える人は82%。コロナ初期は5割程度だったことを考えると重要な変化で、今後企業としてもテレワークを完全になくすことは難しいでしょう。
企業としてはマネジメントもOJTも難しくなるので、ある程度の出社を望んでいる。しかし働く人にとっては、自律的に仕事ができているし、どうして出社しなければいけないのか理解に苦しむ。というギャップが生まれています。
2、ギャップから生まれる課題と、コミュニケーションのあり方
コロナが5類になって以降、都心の企業の多くは週2~3日出社程度に落ち着き始めました。一方で地方の製造業や比較的若い会社は原則出社という傾向があります。アメリカでは、イーロン・マスクが社員に原則出社を求めて話題になりましたが、オフィス回帰の傾向があり、同時に大量の辞職者も出しました。アメリカは前提として労働市場の流動性があるので、ギャップがあれば辞めれば良いのです。しかし日本の場合は不満がありながらも出社する、ということになります。
<コミュニケーションを見える化する>テレワークか出社かという議論になるのは、テレワークそのものが、コロナ禍という有事(非常時)の一時的な働き方だという認識だからでしょう。組織のコミュニケーションを変える必要性を認識していないためです。
「1on1を増やす」「雑談を増やす」といったやり方は、実際にはほとんど機能していません。コミュニケーションは単なる情報伝達ではないからです。
オフィスは仕事の情報伝達だけの場ではなく、仕事に関係のない情報を無作為に摂取する場でもあります。「あっちの部署で顧客とトラブルになっているらしい」「新人がつらそうな顔をしている」などといったことが見えます。そして重要なのはその状況が、みんな「見られていて」みんな「わかっている」というメタ知識(大きな知識、超知識、総合的な知識)を共有していることなのです。ただコミュニケーションを増やしても、このメタ知識は得られません。テレワークで失われるのはこのメタ知識なのです。(次号につづく)