風薫る5月となりました。「風薫る」とは漢語の「薫風」が訓読みされて日本語となったもので、本来は花の香りを運ぶ春の季節を指していたようですが、俳句で取り上げられるようになり、爽やかな初夏の風という意味になってきたようです。松尾芭蕉も「風かほる羽織は襟もつくろはず」と詠んでいます。ちなみに、正岡子規にも「国なまり故郷千里の風薫る」と松山を懐かしむ句があります。
さて、そんな俳句の世界に浸ってしまいたくなるほど、世の中は大変な事態になっています。ロシアによるウクライナ侵攻は2ヵ月経っても停戦の目処が立っていません。これに関連して、例えばロシア国営ガスプロムがポーランドとブルガリアへの天然ガスの供給を停止しました。西側諸国はロシアに対する経済制裁を行っていますので、これに対抗する措置とはいえ、供給を停止される国としては、天然ガスは生活に関わる重要なライフラインであり、代替手段を講じるとしても時間とコストがかかることは避けられず、経済を巡る世界大戦になりつつあると言ってもよいようです。
その経済について、4月29日のNY株式市場では大幅な下落となり、特にハイテク株の比率が高いナスダック市場は、2008年のリーマンショックと同じ規模の下落幅となりました。日本ではGW連休中での出来事であり、今月の東京市場がどのような動きになるのか注目されます。
さて、その経済の混乱ぶりについて、少し前まで遡ってみます。新型コロナウィルス感染症が拡がる前は世界的な規模でバブルと思われる様子が見えていました。米国ではGAFAMといったテック系企業の成長がさらに伸び、日本国内では財政・金融を通じたアベノミクス効果で不動産や金融の価格を支えるという傾向が見られました。それが2020年の新型コロナウィルス感染症により一気に経済が縮小し、世界中の国がかつてない規模の金融緩和(わかりやすく言えば金利を下げること)を行いました。このパンデミックは各国政府が医療を含む体制を整えてくることで、一部の国での経済活動が徐々に復活し、それに合わせて物価や賃金が上昇を始め、欧米では金融引き締め、つまり金利引き上げの方向に向かい始めました。そこで起きてしまったのがロシアの武力行使です。この結果、小麦のような商品市場でさらに経済が混乱する事態になってしまいました。
ちょっと乱暴にこの10年を振り返ってみて、気になるのは日本銀行の対応です。4月28日金融政策決定後の黒田総裁の会見要旨を読んでみると、かつてない変化への意識を感じ取る言葉は見当たりませんでした。巨額の財政赤字を抱える日本では金利を上げるリスクはとんでもなく大きなものです。しかし、円安の結果、輸入に頼る日本の食材は大きく値上がりしています。円安は輸出の比重が高い国内産業にプラスと言われてきましたが、かつての輸出産業はすでに国外だけで稼いでおり、円安は日本にプラスとは簡単に言えなくなってきています。日本の金融トップが変化に触れない、これは大変リスキーなことだと感じられます。