「5分後に意外な結末」
1話を5分程度で読み切れるのに、驚きのどんでん返しが楽しめる本「5分後に意外な結末」シリーズ。子どもの朝読人気ランキング第1位、累計50万部を突破!複数の作者によって書かれた作品を学研教育出版が編集していて、1冊30話前後のオムニバス形式です。どこから読んでも面白く、日本や世界の小説、都市伝説、古典落語などのエッセンスがまとめてあり、イラストも今どきの人気アニメを思わせます。最大の魅力は、短時間で読み切れることと、結末のどんでん返しです。「5分後に意外な結末」?バラ色の、トゲのある人生から1話ご紹介します。
◆有能なアルバイト◆
地方都市の片隅に、1軒のコンビニがあった。コンビニといっても、都会にあるものとは違って、朝に開店して夜には閉まってしまう営業形態のものである。ここ数年、そのコンビニのオーナーは悩んでいた。仕入原価は上がっているのに、思うように売り上げが伸びず、年々経営が厳しくなっていたからだ。そこでオーナー起死回生の策に打って出ることにした。24時間営業に切り替えることにしたのだ。そこでオーナーはアルバイトを募集することにした。
応募してきたのは、この町にある大学に通う男子学生だった。なんの特徴もない凡庸な大学で、そこに通う学生も「平凡」以外の形容のしようがない者ばかり。そして、面接にやってきた大学生は、その「平凡」すら遠く届かないような印象だった。
「バイト経験ですか?豊富ですよ。今までに20回くらい、バイト変えてますから。あ、安心してください。自分から辞めたことはありませんから」
面接をしている間、オーナーはずっと頭痛を我慢していた。声は小さいし、しゃべりも動きものろのろ。「平凡」ですらない……一言で言えば「愚鈍」である。
「アルバイトを自分から辞めたことはない」? それはつまり、すべてクビになったということだ。そんなことを、どこか自慢げに話す神経も理解できない。本当なら、こんな若者を雇いたくはない。しかし、なにせ応募してきたのは彼1人だったのだ。
ひとまず、オーナーは彼を雇うことにした。雇ってみて、あまりにも使えないようならクビにしよう。それが、オーナーの考えた苦肉の策だった。そして、面接をした翌日からシフトに入ってもらったのだが……3日もしないうちにボロが出た。
とにかく何をやらせても、どんくさいのだ。商品を棚に並べる作業では、よく手を滑らせて床に落とす。客に頼まれて弁当を温めれば、なぜかレンジの中で爆発させる。休憩時間でもないのにスマホをいじっている姿も、ほかの店員に頻繁に目撃されていた。
オーナーはアルバイト店員が釣り銭をしょっちゅう間違えるという噂も耳にし、人にそれとなく聞いて見たり、独自にネットで調査をしてみた。すると噂通り、レジに慣れない店員の不手際を笑う言葉ばかりがあった。
『あの天然パーマの店員、俺、お釣り間違えられたことあるよ!500円ぐらい多かった』
『僕は、ほぼ毎回200円ぐらい間違って返されるから、買い物すればするほどお得になる店かもしれません。天パ割引だね』
『行列ができたときは焦っちゃうのかな、あたしもお釣り多くもらって超ラッキー』
オーナーは夜、アルバイトの働きぶりを店の外からチェックすることにした。オーナーがコンビニに行くと、店の中にはたくさんの人影が見えた。オーナーは我が目を疑った。レジに向かって20人以上の客が列を作っていたのだ。
オーナーは店のドアを開け、レジに駆け込んだ。突然のオーナーの出現にグズなアルバイトが黒縁メガネの奥で目を丸くする。ひとしきり客をさばいたあとでオーナーはアルバイト店員の肩をつかんだ。「話がある」「え、なんですか?」「おまえ、ちゃんと釣り銭を確認してるか?お客に多く返してしまってるんじゃないか?しかも一度や二度じゃないぞ。そういう噂がたってるんだ。SNSでも拡散されている!」
その言葉を受けたアルバイト店員は、「そんなこと、ないと思いますけど」と曖昧に否定した「レジぐらい使えますから。それに僕、こう見えて有能なんです」……さて、続きは?(作 桃戸ハル、橘つばさ 株式会社学研プラス 5分後に意外な結末)