F&Aレポート

フランス人がときめいた日本の美術館

フランス人がときめいた日本の美術館

 日本美術をこよなく愛するフランス人美術史家、ソフィー・リチャード氏が選んだ「本当に尋ねる価値のある」美術館のガイドブック「フランス人がときめいた日本の美術館」(集英社インターナショナル ソフィー・リチャード著 山本やよい訳)をご紹介します。

 これは、彼女が10年かけて日本各地の美術館を訪ね歩いて執筆を重ねたもので、日本の美術館だけでなく、日本画・書道・彫刻・茶道具・屏風など、あらゆる日本美術の解説についても、海外から見た独自の視点があり日本文化の価値や、歴史観が深まります。

1、意外に知らない。日本の美術館の誕生と特色について

 日本には博物館と美術館がひしめいています。その数は全部で5,700館以上(文部科学省)です。日本の美術館は、19世紀に入って西欧との交流が盛んになったのをきっかけに発展しました。海外の大国と肩を並べようとして急速に西欧の文物を採り入れた日本では、政治や科学技術、文化の面でさまざまな変化が起きました。そのひとつとして美術館という概念が入ってきたのです。

 日本初の美術館は1872年に創設されました。のちの東京国立博物館です。このように日本の美術館の歴史は比較的浅いにも関わらず、驚くほど多くの美術館が誕生しています。国立の美術館、博物館が9館、47都道府県のほとんどに美術館があり、文化水準の高さを誇る大都市にもたいてい公立の美術館があります。

 それだけではありません。さまざまな規模の私立美術館が全国いたるところにあります。個人コレクター、企業、さらには宗教団体などがつくったもので、独自の個性が強く打ち出され、高い評価を得ています。美術館の数が急激に増えたのはここ30年のことです。こうした新しい美術館はどこも躍動感にあふれていて、なかには、異色の存在といっていいところもあります。

2、西欧と日本の美術館のちがい

 日本の美術館の展示方法は西欧とは少々異なります。西欧の美術館は最高の所蔵品を常設展示するのがふつうですが、日本では年間を通じて展示替えが行われます。その理由は美術品の性質にあります。大切に保存していくためには長期の展示を控えるしかありません。たとえば、天然顔料は褪色、劣化が起きやすいため、絵画の展示は2年間に8週間までと美術館のガイドラインに定められています。展示替えはまた、かりそめの姿を好む日本独特の美意識を反映したものでもあります。美術品を恒久的に展示する伝統は、日本にはありません。

 現代の美術館では、常設展の展示品が1ヶ月ごとに替わるところもあります。その一方で、特別展の比重が大きくなっています。特別展はふつう、年に4回開催され、ほとんどの場合、開催期間中に展示替えが行われます。その年のメインとなる特別展は、たいてい春か秋に開かれます。気候がいいので、日本の人々は昔からこの季節に旅行することを好み、各地へ出かけていくからです。

 21世紀に入ると、日本でもほかの国々でも、美術館が新たな模索を始めるようになりました。ワークショップ、イベント、レストラン、ライブラリーといった方向へ活動の場を広げることで、美術館は文化の発信地となり、旅行者を惹きつける場所となったのです。

 日本の現代アート美術館の多くは、芸術と文化の世界で野心的な取り組みをしています。質の高い作品を展示し、斬新なデザインの建物には時代の最先端をいく設備をそろえています。

 最高の評価を得ている美術館は、館内のデザインがすばらしく、展示品の美しさを引き立てるために、ライティングにもこまやかな配慮がなされています。

 それと並行して、ここ何年かのあいだに、「エンプティ・ミュージアム」、つまり、所蔵品なし、学芸員なしというギャラリーがいくつもオープンしました。ここで開かれる美術展はアートやメディア関係の外部組織が主催するもので、ときには、型破りな手法に避難が集まったこともあります。
 しかしながら、日本で公開されている美術品全体についていえば、やはり信じられないほどレベルが高く、多種多様で、芸術を心から愛する人々を惹きつけてやみません。世界の展覧会入場者数ランキングでは、日本がトップの座を占めることがよくあります。