F&Aレポート

ネットに見る承認欲求~過激な言動に結びつく1

ネットに見る承認欲求~過激な言動に結びつく1

 2018年のアジア競技大会ではデモンストレーション競技としてコンピューターを使ったゲームであるeスポーツが採用される一方で、WHOがゲーム依存を国際的に「疾患」として認めるなど、パソコンやネットの世界の捉え方に注目が集まっています。

 インターネットが承認欲求を満たすことで、人は夢中になり、そのページを運営している企業が潤うという構図は、プラス面もマイナス面もあります。

 インターネットが世界から消えてなくなることはないでしょう。たとえ依存症を引き起こす道具だとしても、私たちはさまざまな形でインターネットと関わり続けていくのです。インターネットが生み出す影響について考えてみましょう。自身もブロガーとしてインターネット社会に精通する精神科医師 熊代亨氏のインタビュー記事をご紹介します。(JAICO産業カウンセラー協会

●企業に所属すること自体で所属欲求を充たすことができた

 以前は、「○○社の誰々です」というだけで認めてもらえたり、社員旅行・社内運動会・飲みニケーションで承認欲求と所属欲求を充たしていました。そういうしがらみの中で充たされなければならなかったともいえます。

 ただ、欲求充足としがらみはコインの表裏で、しがらみが弱くなり自由に承認欲求や所属欲求の場所を選べるようになった反面、自分で両方を充たさなければならなくなってしまった。会社に入っていれば安心、会社が共同体という認識を社員が持っているかというと、今は終身雇用ではないため、そこまで会社にも心理的に繋がれないし頼ることも難しくなっているんじゃないでしょうか。

 インターネットで欲求を充たす場合、一つの原稿によって瞬間湯沸かし器的に有名になって承認されるのは比較的簡単でも、ずっと承認され続けるというのはとても難しい。自分ではセルフコントロールしているつもりでも、見る側はもっと面白いものを、もっと楽しいものを期待します。そうすると周りに引っ張られて結果的に言動がエスカレートしてしまう。そういう人は、ニコニコ動画でもユーチューブでもブログでもツイッターでも後を絶ちません。

 認められたい、たくさんの人に読まれたいと承認欲求を充たすために投稿し続けると、どうしても過激な表現になってきます。

 そもそも、ネットメディア自体がユーザーの「いいね」などの承認欲求、リツイートやシェアなどの所属欲求に意識が向くように作られてしまっているのが現状です。それはやはり今日のネットメディアの問題点であり、注視しておくポイントだと思います。

 SNSを使ってコミュニケーションしていると、そこには同じ思想の人間しかいないんですよ。反対しそうな人は排除されるため同じような思想が結束し、お互いに「いいね」を押し合って承認欲求も充たされます。ソーシャルゲームでコミュニティが盛り上がる現象と、トランプ大統領のように極端な思想が先鋭化しながら、そこに深くのめり込んでいく人たちがいる現象とは地続きだと私は考えています。

●「人」よりも「場」が重要視された

 昔は、「人」よりも「場」の方が優勢でした。「場」にいけば誰かがいて、そこに集まっているメンバーと自然に話し、そこに所属しそこで承認欲求を充たすという仕組みです。それが携帯電話、SNSの普及により「場」に行くことなくオンラインで集まり、どこでも繋がれるようになった反面、コミュニケーションのウェイトは言葉が占めるようになりました。しかも、SNS上で一緒にいると体感するためには「いいね」をつけたり、リツイートしたりシェアしたりして、読み続け発信し続けない限り、一緒にいることになりません。「ただいるだけでいい」というのがSNS空間では認められません。ただ、コミュニケーション能力が高くなく、現実世界では「場」に加わりにくい人でも「いいね」とボタンを使ってとりあえず所属し承認されるというようなプラスの側面もあります。インターネットは承認所属欲求を得る窓口を広くしたといえます。

●深く関わらない人間関係で満足する人々

 現代では、どんな人に対しても上手にコミュニケーションしなければならないということが、ある種世の中の大前提になっていますね。でも、自分とは異なった思想信条やジェンダーの人とそつなく付き合っていくためには、わかりあわない方がいい。いまどきの多様性を成立させるための様式として、あまり深く忖度しないのが「オンライン的なコミュニケーション作法」だと思います。深く関わり合わない「分人主義」でも若い人は満足できるんだと考えるようになりました。
 結論としては、インターネット依存症、ゲーム障害が治療されるのは良いことですが、過剰診断になるのは問題かと。障害までとはいかないネットやゲームの世界もあり、それらに助けられてなんとか適応している人もたくさんいるということを知ってもらいたいと思います。

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