F&Aレポート

ワインは最強のビジネスツール ~世界のエグゼクティブがワインを嗜む理由

ワインは最強のビジネスツール ~世界のエグゼクティブがワインを嗜む理由

 ニューヨークのオークション会社クリスティーズのワイン部門に、アジア人初のワインスペシャリストとして多くの経営者や富裕層たちと関わってきた渡辺順子氏によって書かれた「世界のビジネスエリートが身につける『教養としてのワイン』」(ダイヤモンド社)をご紹介します。

 渡辺氏は、「ワインは美術や文学などと並び、重要な教養のひとつとして深く生活に浸透しているので、学校からビジネスシーンまで、さまざまなところでワイン教育が重要視されている。ワインは最強のビジネスツールなのだ」といい、欧米でワインが文化として根付いていることを痛感したといいます。

ゴールドサックスマンが「ワイン」を学ぶ理由

 ワイン伝統国のフランスやイタリアだけでなく、英国の名門大学、ケンブリッジとオックスフォードでは、60年以上にわたり、大学対抗ブラインドテイスティング大会が繰り広げられており、対決に臨む学生たちは、日々ワインを嗜み、味や香りを覚え、畑やヴィンテージ(ぶどうの収穫年)による微妙な違いを学んでいます。

 スイスのボーディングスクール(全寮制の学校)では、16歳の女の子たちが10代にして、すでにぶどうの特徴、造り手のスタイルを理解しています。ワインが必須科目として授業に組み込まれ、10代からワインを学ぶ場が提供されているのです。友人同士が集まるランチの場でも、食事合わせてそれぞれが好みのワインを選びます。(スイスでは16歳からワインの飲酒が法的に認められている)

 アメリカでも一流ビジネスパーソンがこぞってワインを学んでいます。ワインは単なる「お酒」ではなく、グローバルに活躍するビジネスパーソンが身につけておくべき万国共通のソーシャルマナーのひとつとして捉えられています。

 特に国際色豊かなニューヨークでは、クライアントの接待などの際、テーブルに会する人は、皆白人とは限りません。接待するホスト役にとって、異なるバックグラウンドを持つ人たちに適切なワインを選ぶのは至難のわざです。そこでスマートに的確にワインをオーダーできたら、ビジネスを有利に進められることは間違いありません。接待される側も選ばれたワインについて気の利いたコメントができれば距離が縮まり、仲間意識も深まります。ワインの知識はビジネスを円滑に進めるうえでの重要なツールであり、高い文化水準を兼ね備えるエリートであるかどうかの「踏み絵」としての役割も果たしているのです。

 ニューヨークでは「世界のトップと仕事を進めるには、左脳を使ったビジネススキルと右脳を使ったワインのセンスが必要だ」と言われています。

ワインは最強のビジネスツール

 教養としてのワインを身につけることは、幅広いジャンルを包括的に学ぶことにもなります。地理、歴史、言語、化学、文化、宗教、芸術、経済、投資など、ワインの知識は各分野に横断的に関わっているので、ワインを嗜むことで豊かな国際的知識も得られるのです。その多種多様な知識は、コミュニケーションツールとしての大きな武器にもなります。

 特に欧米では、その知識は最強のツールになります。政治や宗教はもちろん、多種多様な人種が暮らし、考え方もさまざまな欧米では、時事問題を気軽に話すことすら難しいのが現状です。また、ビジネスの場面でもインサイダーの意識が強いため、仕事の話も敬遠されてしまいます。その際に、無難な話題としてあがるのが、スポーツ、アート、音楽、映画、そしてワインなのです。エグゼクティブなポジションの人との会話になればなるほど、私たちが思っている以上にワインが話題にあがってきます。

 さらに、ワインは人と分かち合うことで、よりその存在価値が発揮されます。1本のワインを共有し、感想を語り合うことで、連帯感と親近感が生まれます。次回はこんなワインを、今度ワイン好きの仕事仲間を紹介します・・・そんな具合にどんどんその話が広がっていくのです。言葉がうまく通じなくとも、ワインという共通言語があればお互いの距離が縮まります。ワインは他のお酒と違い、人と人をつなぐ不思議な力を持っているのです。ワインはビジネスの潤滑油として、交流を広げるツールとして機能します。【「教養としてのワイン」渡辺順子著 ダイヤモンド社