ページ三角折り 最近読んだ本から ~イオンを創った女 評伝 小嶋千鶴子
●小嶋千鶴子……日本の実業家。三重県四日市で四日市岡田家が起業したイオングループの元経営者で、イオンのビジネス精神を築いた。と、ウィキペディアでは紹介されています。片田舎の呉服屋という家業を企業へ、企業から産業へと発展させた経営手腕は、多くの新聞やビジネス書等で紹介されています。1916年(大正5年)三重県四日市の岡田屋呉服店の次女として生まれ、その後父、母、姉を失くし23歳で当主となった千鶴子氏は、戦前、戦中、戦後のまさに激動の時代を社長として母として、家業だけでなく幼い弟・妹を育てあげました。
●今や全国、どこを旅してもイオンの看板を見ない地域はないと言ってもいいほど流通を牽引し、生成発展を遂げているように見えるイオンでも、スタートは一地方の家業に過ぎなかったこと。さらに経営には素人だった若い女性が、自らの変革も含めて世の中に順応し業界を変革し、社会貢献を果たしていること。そんなところに惹かれ本を手に取りました。たとえ月並みな言葉であってもそれは千鶴子氏の体験から滲み出る真実で私たちは学ぶべき点があります。今回と次回に渡りご紹介いたします。「イオンを創った女」東海友和著 プレジデント社
<小事は大事:小事を大切にするのがプロ「多くの常識人を育てたい」>
小事を厭うものに大事は任せられない。小事を見逃すと大事に至る。古今東西の経験上の鉄則である。しかし、簡単ではあるが行うことは難しいのも事実である。
挨拶、身なり、言葉遣い、約束を守る、礼儀、整理整頓等の日常生活上のマナーはもちろん、ビジネス上の一般的なルールでは職業や肩書、役割によって、それ相応のレベルが要求される。
あるとき、小嶋から「東海君、一度ジャスコの幹部社員にも細かい常識を教えなとあかんな。この前、お客さんとタクシーに一緒に乗るのに、合併会社の○○君が、お客さんにどこに座ってもらうかも知らないで恥かいたわ」と言われた。どちらかというと社内では、上下の礼儀作法も問わない小嶋ではあるが、社外では別である。
仲間内の言葉は仕事場では通用しないし、立場のある人がぞんざいな言葉遣いをすれば、その立場を失墜することだってありうる。日頃大言壮語を吐きながら礼儀知らずでは信用されない。
小嶋の言う「人間的なことを疎かにしない社員を育てたい」、「常識人を育てたい」というのは、要するに社会から信用される社員を多く育てることである。
小事は毎日の積み重ねによって大事になる。
プロは日頃の小さな修練を欠かさない。音楽家も芸術家もアスリートもそれを欠かせば大きな成果が得られないことを知っているからである。チェーンソーを扱う林業作業員は、木を切る時間よりチェーンソーを研ぐ時間のほうが長いという。研いでおかないと切れ味が悪く、結局のところ効率が悪いことを知っているからである。
ヤナセの河野敬氏は、19年間にベンツを1530台売り、「飛び込み営業で日本一ベンツを多く売った男」として有名だ。
「私たちが回るのは昼間ですから、基本的には奥さんしかいないわけです。名刺を置いてきて、反応を待つのが仕事ですね。結局、飽きることなく継続して名刺を置いてくるしかない」(野地秩嘉『プロフェッショナルサービスマン』プレジデント社より)
その後、河野氏は管理職となったいまも修練のため飛び込みセールスを続けているという。知人の新進気鋭の陶芸作家は、職人時代に毎日何千個という茶碗をろくろで引いたという。その後、世界各国を放浪し、その土地でその土を使い作品を作り続けた。いまでは精神性の高い用の美と芸術性の高い作品を多く作り人気作家となっている。
多くの人がそれぞれの組織内で働いている。将来のためにいまから行う日々の小さな修練は何があるだろうか。一流のプロは小さなことを疎かにしないで密かに続けている。