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日本語トレーニング(12)冬、時節のことば

日本語トレーニング(12)冬、時節のことば

暖冬で季節感のない今日この頃ですが、季節のことばを聞くと日本人の感性にわずかながらも心が動きます。今にふさわしい言葉を集めてみました。(美しいことばの抽きだし 藤久ミネ著)

(1)数え日 かぞえび 年内はあと何日…と、指折り数えるような慌ただしい日々を「数え日」という。

「もういくつ寝るとお正月…」の歌の通り、昔は家族揃って正月に歳をとるのが習わしだったので、正月を待つ心持ちには、今とは比べものにならないほど特別な思いがあったにちがいありません。

 29日は小つごもり、30日はつごもり、31日は大つごもりと、カウントダウンするのも、時が過ぎてゆく重みを濃密に感じていたことがわかります。「時間こそ、いのち」そんなこと感じないではいられません。

(2)去年今年 こぞことし 去年から今年へと一夜にして移り変わることへの感慨を込めた季語。

「去年今年 貫く棒のごときもの」高浜虚子

これを読んで感嘆したのが川端康成だそうです。川端康成は「棒のごときもの」という表現について、「禅の一喝にあったようだ」と絶賛したと言われています。この「貫く棒」は、新年を迎えても持続する志を感じさせるのだとか。

 「往く年くる年(ゆくとしくるとし)」は、往く年に重きがあって歳末の季語。「去年今年(こぞことし)」は今年への思いを託す新年の季語です。

(3)目の正月 めのしょうがつ 目の保養と同義。良いものを見て目を楽しませること。目正月ともいう。

 むかし、正月は子ども達から「お正月さま」と呼ばれていました。

 今でいうサンタクロースと同様に、子ども達は「お正月さま」を白いひげのニコニコしたおじいさんのように想像していたらしいです。お正月さまが良い子に持ってきてくれる贈り物がお年玉で、元日に目を覚ますと枕元に置かれてあるのだそうです。家の中はきれいだし、ご馳走は食べられるし、大人も仕事を休んで祝い事や遊びに加わる。一年で一番うれしい日が正月でした。正月ということばは、一年の初めの月を指すだけでなく、喜ばしく、晴れがましいことという意味があります。そのため、面白い芝居を見たり、美しい光景に接したときに、人々はそれを「目の正月」と表現しました。目に、正月の愉悦を与えたということなのでしょう。

 ついでに「目に借りができる」という表現もあります。目を酷使したときに使う言葉です。おもに東京の下町独特の慣用的な言い回しですが。「ガキどもが朝早くから騒ぎやるから、目に借りができちまって、、、」という風に使います。目を十分に眠らせ、休ませてやれなかったから、目に借りができたというわけです。

(4)雪催い ゆきもよい、風花 かざはな、友待つ雪 ともまつゆき 空が曇ってどんより低く、いまにも雪が降り出しそうな気配が感じられる天気を「雪催い」。晴天なのに雪が一ひら二ひら、花びらのように舞い降りてくる様子が「風花」。残雪が、まもなく降ってくる新しい雪を待っているように見えるのが「友待つ雪」。

 いまにも雪が降り出しそうな天気。厚ぼったい空、雪の水分を含んだ湿った重い空気が感じられる。そうした空合いを、北国の人々は雪催い(ゆきもよい)とか、雪気(ゆきげ)と呼びます。同じ雪でも、山に降った雪が、晴れた風の吹く日に、風にのってやってくるのが風花。また、一度降った雪が、ひらひらと空中に飛ぶのも風花。風花は、盆地や山麓地方に多く、どちらかといえば、乾いた空気の中でみられる現象。からっ風が吹く地域でもよく風花が見られるといいます。

「友待つ雪」は、源氏物語の中で使われる形容句。空に雪の風情があり、まもなく白い雪が舞い降りてきそうに見える。溶けかけた雪があとからくる仲間を待っている、そんな様子をいうのだそうです。いずれも季節感だけでなく、日本人の雪を見るまなざしの、親しみや優しさが感じられる言葉です。

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