F&Aレポート

日本語トレーニング はなす・きく・よむ(1)

日本語トレーニング はなす・きく・よむ(1)

■ご注意!「まで」の使い方
■ 「さくさく・さくっと」どんな意味? (NHK気になることばから)

 「ある会社の部長に楊枝があって電話をしたところ、『部長は二十日まで会社に出てきません』と返事がきました。では、この部長が出社するのは“いつ”でしょう?」

 NHK放送文化研究所がインターネットでアンケートをしたところ、「二十一日に出社」が63%、一方「二十日に出社」が37%と判断が分かれました。この場合、二十日と二十一日、どちらの解釈をしても間違いにはならないのです。それだけに、聞いた側と言った側が、別々の判断をする可能性もあります。

 年代でも違いが出ました。六十五歳以上では、「二十一日に出社」が79%、「二十日に出社」が21%になりました。およそ八割の人が二十日まで休みで二十一日出社と解釈しています。しかし、これが二十代になると、「二十一日に出社」が58%、「二十日に出社」が42%になりました。二十日と二十一日と、出社日にばらつきが出たのです。

「まで~ない」という言い方の「まで」は、“以上”や“未満”と違い、日付や場所を含むか含まないか決まりがなく、実に紛らわしいのです。

 たとえば、「土曜日まで雨は降らないでしょう」と言うと、土曜日に雨は降ると思いますか?降らないと思いますか?

 これもどちらでも間違いではありません。そのため、こちらも「土曜日まで晴れ、日曜日から雨」など、誤解の余地がないように言うことが大切です。

 では、どうして紛らわしい「まで?ない」を使ってしまうのでしょうか。

 たとえば、電車のアナウンスで、「上野駅まで停まりません」と言われた場合、「上野駅に停まる」場合がほとんどかと思います。ただ、国立国語研究所の研究によると、「次の停車駅は上野です」というよりも、「上野まで停まらない」という言う方が、通過する駅があることを強調できるのではないか、ということでした。ですが、日時、場所などをはっきりさせたいときは、お互いに誤解のないように伝えることが大切ですね。

 「仕事をさくさく片付ける」「さくっと食事に行く」

「さくっと」は「さくさく」の短縮形で、「さくさく」を辞書で引くと「歯でものをかむ音、野菜などを刻む音、雨期や砂などを踏んで歩く音など、連続する軽快でさわやかな感じのする音を表す語」と載っています。しかし、「仕事をさくさく片付ける」は音を表現したものではありません。

 街頭インタビューで聞くと「ちゃっちゃと、早目に、物事を素早く簡単に」という意味で使うという答えが返ってきました。昔は麻雀用語として使われていたという話しもあります。親流し(親の番のとき、軽い手でとりあえず上がっておくこと)をするときに「さくっと上がる」と表現していたようです。ITの世界でもネットで色々なサイトにすんなり繋がることを「さくさくつながる」と言います。つまり、音だけでなくその「様子」を表した言葉として使われているのです。

 このように、今どきの新しい使い方かと思いきや、実は調べてみると、鎌倉時代の説話集「宇治拾遺物語」にも出ています。「白く新しき桶に水を入れて、この釜どもにさくさくと入る」とあります。辞書によっては、この「さくさく」の意味を「水などが滞りなく経快に流れるさまを表す語」だと説明しています。

 「さくさく・さくっと」は、今も昔も「さくさく」の語感や意味合いを同じようにとらえているからこそ通じる“便利な言葉”なのかもしれません。