50歳からの音読のすすめ 2 中高年だからこそ味わえる言葉の妙味
あえて声に出して読むことで味わえるリズム、テンポ、ことばの熱量があります。50歳を過ぎると、だれでも悲喜こもごもの人生経験があります。自分の人生経験を踏まえて、日本語の醸す情緒を味わうことができます。朝の出勤のひととき、一日を終えて眠りにつく前など、心に響く名文を音読してみてください。繰り返し読み上げるうちにあなたの心にフィットし、心に潤いと明日への活力を生んでくれるでしょう。「50歳からの音読入門」(齋藤孝著 だいわ文庫)から、短い名文と要約をご紹介します。
■「論語」
子日(しのたま)わく、知者(ちしゃ)は水(みず)を楽(たの)しみ、仁者(じんしゃ)は山(やま)を楽(たの)しむ。知者(ちしゃ)は動(うご)き、仁者(じんしゃ)は静(しず)かなり。知者(ちしゃ)は楽(たの)しみ、仁者(じんしゃ)は寿(いのちなが)し。
■現代語訳 先生が言われた。「<知>の人と<仁>の人では性質が異なる。知の人は心が活発なので流れゆく水を好み、仁の人は心が落ち着いているので不動の山を好む。知の人は動き、仁の人は静かである。したがって、知の人は快活に人生を楽しみ、仁の人は心安らかに長寿となる」
■ 味わうポイント 自分が知者、仁者、どちらのタイプに近いか考えるのは楽しい。セザンヌは人生の後半、飽く事なく故郷の山を描き続け、絵画史を画する大傑作を残しました。自分の気質と合ったものは相性がいいのです。この論語をきっかけに、自分が何に触れていると心が落ち着くのかを見つめ直してはいかがでしょうか。
■「言志四録(げんししろく)」は幕末の儒学者である佐藤一斎(さとういっさい)の著作です。佐藤一斎は幕府直轄の教育機関である昌平坂(しょうへいざか)学問所のトップ。現代で言うなら大学の学長まで務めた人物です。日本における儒学の大成者として、大変尊敬されていました。「言志四録(げんししろく)」は「言志録」「言志後録(こうろく)」「言志晩録(ばんろく)」「言志耋録(てつろく)」の四冊を総称してこう呼ばれています。西郷隆盛はこの書を生涯の座右の書としていました。
■ 言志晩録
少(しょう)にして学(まな)べば、即(すなわ)ち壮(そう)にして為(な)すこと有(あ)り。壮(そう)にして学(まな)べば、即(すなわ)ち老(お)いて衰(おとろ)えず。老(お)いて学(まな)べば、即(すなわ)ち死(し)して朽(くち)ちず。
■ 現代語訳と味わうポイント これは「三学の教え」と言われるものです。少年のときに学んでおけば、壮年になってからそれが役立ち事を為すことができる。壮年のときに学んでおけば、老年になっても気力が衰えることはない。老年になっても学んでいれば、見識高く社会により多く貢献できるから、死んでもその名が朽ちることはない。人生の「少、壮、老」それぞれの時期にはすべて学ぶべき意義があることが説かれています。
■ 「言志晩録」
一燈(いっとう)を提(さ)げて暗夜(あんや)を行(ゆ)く。暗夜(あんや)を憂(うれ)うることなかれ。ただ一燈(いっとう)を頼(たの)め。
■ 現代語訳と味わうポイント 暗い夜道も、一つの提灯をさげて行けば、何も心配はいらない。ただその一つの提灯だけを頼りに行けばよい。
ここで言う「一燈」は、自分の生きる一筋の道を照らす何かを意味します。「何か」とは人によって異なります。一斉は「自分はこれで生きていく」というものが一つだけあれば十分だとしています。たくさんの提灯ではなく、一燈だけを頼りにするからこそ、迷わずに我が道を進んでいけるのです。
さて、あなたは一燈を何に定めますか?