秋の感性、秋のことば「そぞろ寒し」「しのび寄る秋」
立秋のころのよく晴れた朝の空気を「今朝の秋」といそうです。着実に秋がしのび寄ってきている気配のことをいいます。
秋の気配を最初に感じるのは空気かもしれません。日中はまだ汗ばむような気候でも、朝夕はすっかり涼しく、風の気配を感じます。「秋ですよ?」と声高に迫ってきているのでなく、ひそひそ声で「秋がきましたよ」とささやいている感じです。そのささやきは、季節がすすむごとにつぶやきに、さらにしっかりと感じるようになるのです。
秋の「涼しい」から「肌寒い」に移るころは「そぞろ寒し」がふさわしい言葉です。もう一枚上着を羽織りたくなる頃の表現です。
春は「しのび寄る春」とは言いませんが、秋は「しのび寄る秋」といいます。この言葉には、なにかひっそりと姿を消して、いつのまにか近づいている印象があります。そう秋は、目には見えねども、風の音に驚かさせるのです。
もっとわかりやすいのは、虫の声。夏の虫が、大オーケストラだとしたら、秋は鈴虫、松虫など、美しい声を聴かせるソリストのようです。虫の姿は見えなくとも、窓の外から聞こえる虫の声にふっと秋を感じます。
季節の変わり目は、言葉では表現できない何かを感じることがあります。それを私たちは「気配」と呼びます。冬から春への変わり目は花が咲くことで、秋から冬に移るのは、雪や氷で実感します。夏から秋へ変わる気配は、虫や野の花で感じることもありますが、何よりも朝の空気が違います。さわやかな空気です。
もともと「さわやか」は、秋を表現する言葉であったのに、いつのまにか年間通して使う言葉になりました。さわやかは、「さやか」「冴える」と関係が深く、冷たく際立った鮮やかさをいい、くっきりと冷たく切るかのような言葉の性質をもっています。
これからしばらくの間、さわやかな季節を感じることができそうですね。耳をすませて秋の気配を感じてみましょう。