F&Aレポート

女性の「働き方改革」と「ダイバーシティマネジメント」 キャリア自律を支える組織の重要性

女性の「働き方改革」と「ダイバーシティマネジメント」 キャリア自律を支える組織の重要性

 最近、キャリア研修や上司とのキャリアプラン面談がある企業が増えていますが、某企業の女性グループと話をしていたら、「毎年あの面談をするのがだんだん苦痛になってきた。上司と30分話をしろと言われても何もない」と、言うのです。みんな頷いていました。

 毎日のように「働き方改革」の言葉を見るけれど、改革は入口に立っただけで、実態は課題多しというのが現実ではないでしょうか。今回は、女性の働き方と組織の関係を、武石恵美子氏(法政大学キャリアデザイン学部教授)の講演録(「多様な生き方と自律的キャリア」)をご紹介します。

■「ワーク・ライフ・バランス」という言葉があります。働く人にとっていいことだらけと思われがちですが、「迷惑なんです」という言葉も聞こえてきます。残業させてもらえない、休日仕事をしていると上司から怒られるという意見が結構な割合で出てきます。

 ワーク・ライフ・バランスはEUの政策として重視されました。「こんな長時間労働なら辞めたい」という働く側から声が上がり、働き方の柔軟化が始まったのです。ところが日本では、働く側ではなく政府主導で始まりました。何となく仕事をしていれば満足、まあいいかと思ってしまう。自分がやりたいこと、やるべき事を考えていない、考える訓練を受けてこなかったということが日本のワーク・ライフ・バランスの問題です。

■始業時刻と終業時刻をみても、日本は8時台、9時代に集中していますが、イギリス、ドイツは6時台、7時台など朝から働いている人達もいます。日本は一斉に仕事をするけれど、イギリスやドイツは自分で働く時間を決めているということです。朝6時に来る人は、子どものサッカーのために午後3時くらいに帰るなど。これからのダイバーシティを進めるときに、ライフも自律的とらえて、働く時間を自分で決められるようにすることも重要です。

■育休から復帰女性のモチベーションが下がる 妊娠出産のときに問題なのはマタハラです。「妊娠したから非正規社員になれ」「責任者から外す」と言われるものです。「育児中の女性は大変、かわいそう」と言われますが、少しやり方を変えればできる人もいます。そのためには、「私、もっとこうすればこの仕事ができます」「どうすれば協力してもらえるか」など、本人や上司、他者に働きかけるスキルが必要です。当人の意志を確かめず、よかれと思って責任の軽い仕事に回してしまうと、結果として女性従業員の不満となってしまうのです。

■転勤:育休を乗り越えても転勤で辞める女性 共働きのカップルが増え、育児や出産で辞めなくなったのに、夫の転勤で辞めたという人は意外に多くなっています。勤務地限定という制度をつくればいいという議論はありますが、そうすると勤務地限定は女性でという男女区分が起こってしまいます。それでは解決になりません。転勤を拒否して解雇され裁判になった事例もあります。裁判は企業側が勝ちました。「転勤を了解して入社したのだから」という考え方です。その後も多くの判例は、事業主の意向に従うという方向に落ち着いていますが、最近は人手不足もあり、育児や介護をしている人が転勤、退職をしないように制度や本拠地を決める制度を作る企業も出てきています。組織側も労働者側も、転勤に関して話し合える土壌をつくる必要があるのでしょう。労働者も転勤をしたくないなら自分のキャリアをどう設定していくのかを考えなければなりません。

 転勤は人材育成効果があると、企業の人事の大多数が主張します。新しい土地で人間関係をつくるのが重要だと。でも実際労働者側にアンケートをとると、「転勤で、キャリア形成もできていないし、転勤したくなかった」という答えが多いのです。実は企業が転勤に期待する育成効果が本当にあるのかは、十分には検証されていません。今後の課題です。

■「言える、聴ける」 従業員自体がキャリアの方向性を決めて主体的にアクションを起こすことが自律だとすると、組織に対して自分の状況を説明し、リクエストすることが重要になります。また企業側もそれを受け止める力が必要です。すると、企業もダイバーシティを活かせるし、従業員も多様な人達が組み、多様な活躍ができるようになります。「言える」「聴ける」が、これからは重要なスキルになっていきます。

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