あなたは日本語ペラペラですか12 今は昔、歌舞伎がルーツの言葉(「いきな言葉 野暮な言葉」中村喜春著より)
■次の言葉は歌舞伎の芝居から来ている言葉です。古風な言葉は、さらりと知性をにじませます。会話、メール、プレゼンなどで活かしてみませんか。
[1]道具立て(どうぐだて)
意味:隙なく上手に物事を整えてあること「あれだけ道具立てが揃ってちゃァ、断れないわネ」「あの人はなにしろ、道具立てがうまいから、かなわないワ」などと言いますが、これは歌舞伎の大道具から来ているといわれます。たとえば、男性が女性を好きになる。そんなとき、「道具立て」をしてくれる人がいると事がうまく運びます。たとえば、食事をする場所を設定してあげて、上手にチャンスをつくってくれるなど。もちろん、ビジネスでの「道具立て」もありますね。
[2]引っ込(ひっこ)みがつかない
意味:何かひとごとに巻き込まれ、ある程度まで深入りして後戻りできない。あるいは自分が何かに打ち込んで、周りの人達の反対があっても、途中で止めることができない。歌舞伎の花道の「引っ込み」は、お客様に強い印象を与えることができます。職業を引退するときも文字通り、「引っ込み」が使われます。「人間は引っ込みが大切よ」「引っ込みがまずかったね」など。今は「引きぎわ」の方がよく使われるかもしれませんが。男女の間柄なら「引っ込み」のきれいな人は「別れ上手」。人間は「引っ込み」が大切なのですね。
[3]世話場(せわば)
意味:歌舞伎の芝居で、町人の、しかも貧しい庶民の生活をあらわした場面のことを言います。殿様やお姫様が出て来る豪華絢爛な舞台とは対照的な長屋のシーンなども世話場といいます。芸者が自分でご飯を炊いたり、洗濯をしていると、「まあ、たいそうな世話場だこと」と言ったのだそうです。なにしろ昔は、ご飯ひとつ炊くのも、たすきをかけて、前掛けをして、火をおこして、お米をとぎ、釜を火にかけるという始末ですから。井戸端でたらいに水を汲みいれ、寒い日に川で手をかじかませながら洗い物をする、そういう時代の哀れな暮らしぶりを世話場といいます。現代のように、スイッチひとつで、ご飯が炊ける、洗濯ができるという時代では、どこにも「世話場」など見当たりませんね。
[4]木戸を突かれる(きどをつかれる)
意味:入場を拒まれること。欧米の一流レストランでは、赤ちゃんはもちろん、十三歳未満の子どもを連れていたり、Gパンにスニーカー姿だと木戸を突かれます。
江戸時代、芝居の入口には木戸が立っていて、そこから見物人が出入りしました。木戸とは芝居などの興行場の出入口のことで、入場料を木戸銭(きどせん)と言いました。上流の客は芝居茶屋から入り、出方(でかた)(案内人)に案内されて客席(枡(ます))に入ります。一般客は木戸から入りますが、ただで入ろうとする人がいるとそこで入場を止められる。これを「木戸を突かれる」と言ったのです。きっと胸ぐらでも突かれたのでしょう。
[5]一目千両(ひとめせんりょう)
意味:目がとてもチャーミングな人のこと。若い女の子で目づかいのとても可愛らしい人がいると、一目千両といいます。年をとっても目の色っぽい人はいます。また歌舞伎の役者の中には「一目千両」と言われる人がたくさんいます。目の使い方ひとつで自分の意思表示ができるわけです。
現代用語で言うなら「目ヂカラ」といったところでしょうか。しかし、「目ヂカラがあるね」というよりも「一目千両ですね」の方が風情がある表現のような気がします。「目は口ほどにものを言う」は、今も昔も変わらないのですね。
[オマケ]来し方行く末(こしかたゆくすえ):今まで自分が来た道、それから将来の自分の進んでいこうとする方向。年の瀬にあたり「来し方行く末」に思いを巡らせるのもいいですね。