F&Aレポート

リーダーのためのプレゼン力 ~“お・も・て・な・し”プレゼンの舞台裏にみる「印象」の重要性 「パーソナル・インパクト」に学ぶ~

リーダーのためのプレゼン力 ~“お・も・て・な・し”プレゼンの舞台裏にみる「印象」の重要性
 「パーソナル・インパクト」に学ぶ~

■ 2020東京五輪招致を成功に導いた影の立役者、マーティン・ニューマン氏は、世界の政財界トップに「印象」の演出術を指導している。あの「お・も・て・な・し」プレゼンも彼の指導のもとに生まれた。
■ マーティン・ニューマン氏は「自分の話すことに耳を傾けてほしい」「自分という人間を理解してほしい」と、他人にアピールする行為は、すべてプレゼンテーションだという。そのプレゼンテーションで、最も大切なことは何か?多くの人は「話の内容」すなわち「情報」だと思っているが、実はそうではなく、周囲に与える「印象(インプレッション)」だという。
■ 今回は、滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」プレゼンが生まれるストーリーを紹介しながら、「印象」の重要性を考えてみたい。(「パーソナル・インパクト」マーティン・ニューマン著

1.「お・も・て・な・し」を海外の人にどう伝えるか
 日本で昔から日常的に使われてきた言葉「おもてなし」を、海外のIOC委員にどう伝えるか。この言葉をいかに印象づけるか。当然、IOC委員の皆さんは、日本語を知りません。「おもてなし」という日本語は、彼らにとって初めて出会う言葉なのです。そこで、まず私たちは「新しい言葉を教えてあげるかのように表現する」ことにチャレンジしたのです。
 新しい言葉を教えるには、どのように伝えればいいでしょうか。私は招致プレゼンターの滝川クリステルさんに「新しい言葉を教える場合には、どのように教える?」と聞いてみました。すると「私だったら指で指すようにして『お・も・て・な・し』とひとつずつ区切って教えます」と彼女が言ったのです。子どもに新しい単語を教えるとき、私たちは、言葉を音節ごとにひとつずつ分けて発音し、言葉を最後に完成させる教え方をします。そこでまず、その教え方を映像に撮ってみました。

2.ジェスチャーの印象をチェック~”思い”と”印象”は別物
 しかし、動画を再生してみると、人を叱っているようにしか見えなかったのです。人差し指を上下に動かしながら、相手に向ける動作は、指を指されている側からすれば、怒られているような気分になりかねません。そこで、もっと柔らかい印象を醸し出すため、人差し指ではなく、手全体を使って区切るアクションをやってみることにしました。
 手の動きも、指先を下に向け、上から下ろす動作は、排他的でクローズドな印象を与えてしまうので、よりオープンで、より歓迎しているムードを出すために、指を上に向け、あたかも種を植えるかのような手の動きにしたのです。
 そして滝川さんは「お・も・て・な・し」の「し」の箇所で、手を広げ、斜め上に上げて、花が咲いたようなジェスチャーを加えました。

3.合掌のアクションの意味
 2回目の「おもてなし」では、滝川さんが「合掌」のポーズをとりましたが、合掌が日本の”おもてなし”を表す仕草ではないことは知っています。”おもてなし”を表す一般的なアクションとして、日本には「お辞儀」がありますが、それはありきたり過ぎると考えたのです。
 この招致が日本だけでなく、アジア全体からの発信・アジアへの招待だということを印象づけるためにも、外国からみて、とてもアジアらしい表現である「合掌」を採用したのです。
合掌はアジアの多くの国や地域で、敬意を表す仕草です。アジアの中の日本への招致という意味で、アジア全体の歓迎の意を表現しようと思ったのです。招致プレゼンはIOC委員に対して行われるものであり、日本人に向けたものではありません。外国人であるIOC委員には、合掌は”歓迎”を連想させるジェスチャーなのです。そしてスピリチュアルな表現である合掌は、両手を合わせ中央に持ってくる仕草で「融合」を意味します。
 また、本番で滝川さんは合掌の仕草をすることによって、自分自身の心と体の落ち着きを得ることも同時にできたのだと思います。
 「お・も・て・な・し」はこのような試行錯誤を経て完成し、世界中から大絶賛されたことはご存知の通りです。

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